中国に一層厳しい態度をとるアメリカ
こうした中で、伊勢志摩におけるG7サミットは開催されようとしていたが、アメリカのオバマ大統領はサミット参加のために日本へ赴く前に、もう一つ重要な意味を持つ外交を展開した。
大統領は、5月23日から一足先にまずベトナムを訪問した。ベトナムの首都ハノイでチャン・ダイ・クアン国家主席と会談した後の共同記者会見において、ベトナムに対する武器禁輸措置を全面的に解除すると発表したのである。
ベトナムは依然として共産党独裁の社会主義国家であり、民主主義国家のリーダー役であるアメリカの決断はまさに異例中の異例であろう。「全面解除」というのは当然、性能の高い最新鋭の米国製武器がベトナム軍の手に入る道が開かれることを意味する。かつてアメリカとベトナムは、数十年間にわたるベトナム戦争において宿敵であったが、これで今やベトナム軍はアメリカの武器によって装備される時代となったのだ。
双方の目的はただ一つ、中国からの軍事的脅威にいかにして対抗するかであろう。かつての宿敵は今、軍事協力の強化によって共同して中国に立ち向かおうとしている。
もちろん中国からすれば、南シナ海で激しく対立する強敵のベトナムが、中国軍を圧倒する米国の武器によって装備されるようなことはもはや悪夢というしかない。習近平政権からすれば、レームダックと言われるオバマ大統領にあまりにも重い一撃を喰わされた思いであろう。
ベトナムとの関係強化を果たしたアメリカの中国への態度は、より一層厳しくなった。伊勢志摩サミット閉幕日、カーター米国防長官は米国内から、中国に対する厳しい批判の矢を放った。
メリーランド州アナポリスの米海軍士官学校で演説したカーター米国防長官は、中国が軍事拠点化を続ける南シナ海問題について、「米国は、航行の自由、自由な交易、平和的な紛争解決など核心的な原則を守り、パートナーと共に立ち向かう覚悟だ」と述べ、積極的に関与していく方針を改めて示した。
カーター氏は演説の中でさらに、「中国は拡張的で前例のない活動を南シナ海でしてきた。係争海域の人工島での施設建設、軍事拠点化は他国の埋め立てをすべて合わせたよりもはるかに(規模が)上回っている」と指摘した。
そしてこの演説において彼はなんと、中国を22回にわたって名指しする異例の強さで批判を展開したのだ。