電動歯ブラシから離脱する人が多く出るということに納得できた。汚れを除去するという基本性能に満足できない廉価品だけでなく、高額品にもどうかなと思う点が多々あった。大塩は再び市場調査に戻った。使用を止めた理由を探るためだ。その結果、本体が太くて重い、振動や音が不快、ブラシ部分が大き過ぎるといった指摘が上位を占めた。
この調査は商品を具体化するうえで、大きなヒントとなった。大きさや音への不満は、とくに女性から多かった。充電式の電池を採用するなど1万円を超える高額品は本体も太いし、男性用のシェーバーのように派手な音も出る。
自分自身の中にあった 不安を払拭するヒント
通常の歯ブラシに近いサイズで軽くし、静音を追求する。システマと同じ極細の毛先に振動を与えて除去力を高める─大塩のなかでコンセプトが固まってきた。その過程で、先輩から口酸っぱく教えられてきたことを反芻しながら作業を進めた。兎にも角にも「ターゲットを明確にする」ということだった。大塩はそれによって「商品の独自性も確保できるようになる」と理解した。誰に買ってもらうかをトコトン詰めれば、他にはない個性をもたせることができるというのだ。大塩は歯周病のケアに関心を強める35歳以上の男女、初めて電動式を使うかあるいは離脱した人─と顧客層を明確にした。エントリーユーザーを掴むため、実勢価格は2000円を切るところと決めた。
システマ音波アシストの本体部の直径は15.7ミリで、重量は電動式で最も太いタイプの4分の1相当とした。振動や音を抑えることのできるモーターを選び、電池は単4を1本のみと割り切って重量は32グラムに抑えた。また、歯垢だけでなく歯の表面の汚れを落とすため、ブラシは毛先がやや太いタイプを中心部に配置する2層構造とした。
売れる商品づくりができたと確信したものの気掛かりな点があった。電動式自体が下火になっており、自社の営業部門や販売店がどれだけ動いてくれるかという不安だった。そこで「使っていただければ分かる」と、大塩は1万本とかつてない規模で社内外向けのサンプル品を用意した。この結果、扱い販売店は当初の想定より2割程度増え、販売を下支えした。営業時代の経験を生かしたプロモーションだった。
オーラルケア事業部は希望して配属された部署だが、大塩は当初この分野に関する自分の「あまりの知識のなさ」に愕然とした。以来、文献をあさったり、先輩から書籍をもらったりしながら知識を蓄えていった。今回の商品企画は、初めて手がける新規製品であり、しかもシステマという「先人が培った大きなブランド資産」(大塩)が対象となっただけに、大きなプレッシャーだった。
しかし、営業での経験やオーラルケアに関する地道な知識の積み上げ、さらに先輩社員のアドバイスを総動員しながら乗り越えた。新米企画者はそこからヒットするモノづくりの“要諦”を学んだ。次作も期待できそうだ。(敬称略)