2024年4月25日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2016年9月5日

――法令により禁止はされていますし、ぼったくりも多発していますが、その2点をきちんとクリアして整備すれば、数多ある歌舞伎町の店の中から客の要望に応える店を案内してくれるのであれば有効に機能する可能性もありますね。

武岡:これは自分で直接調査したわけではないのですが、小規模な繁華街だと客引きが上手く機能しているらしい、という話も聞きます。規模が小さいと、ぼったくりをしてしまうとすぐにバレてしまうので、悪いことが出来ないために機能するとのことです。

 またこれは本書でも触れた内容ですが、あるお店がその日の売上が芳しくない時、客引きに対し「今日は割り引いて案内してくれて大丈夫です」と伝えれば、売上が持ち直すかもしれない。その時々の需要と供給のバランスを上手く取る仕組みになっているので、特に風俗営業のような業態と客引きとは非常に相性が良く、適合的な職業と言えるかもしれません。

――ただ、その客引きの存在が「歌舞伎町=ぼったくりの街」のような認識を多くの人に生んでいるのも事実ですね。

武岡:世界の歓楽街と比べると、先ほど申し上げたように歌舞伎町はオン・サイト型で、しかも外からは店内が窺えないという構造になっているので、ぼったくりが完全になくなることはないのではないかと思いますね。いくらウェブで調べたところで、実際に現場に足を運ぶと違いがある。歌舞伎町に関する情報はさまざまな意味で不完全で、その不完全性が、客引きといったブローカーのニーズを生みます。それは何も客引きに限ったことではなく、例えば不動産に関して一般に情報が人々にとって不完全であるからこそ、不動産業者が生まれる余地があるのと同じです。

 歌舞伎町は不透明な上にオン・サイト型であるからこそ客引きが出てきます。でも、だからと言ってその客引きがぼったくりをしなくても良いじゃないか、と思われるかもしれません。しかし歌舞伎町では「ぼったくらない理由がない」ということでもあるのです。

――それはどういうことでしょうか?

武岡:歓楽街でぼったくりが起こる理由はいくつか挙げられます。そもそも売り手にとってみれば高額の請求は利益の最大化になる。風俗産業は中長期的に取引を継続するインセンティブに相対的に欠けているし、警察などによる法執行は効果的に行なわれていませんから、こうした条件のもとで利益の最大化を考えると、ぼったくりは合理的選択であるとすら言えます。


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