フランスEDF(仏電力公社)と中国CGN(広核集団)が共同で取り進めている英国ヒンクリーポイントC原発の契約調印を英国政府が遅らせ、メイ新首相が率いる政権が契約の是非を再検討することになった。英政府の再検討方針の発表が行われたのは、契約調印式の前日という際どいタイミングだった。英国政府の最終結論は初秋に出される予定だ。
見直しを行う理由は、安全保障上の問題とも言われているが、英国の原発に中国資本の参加を英国政府が認めた時点から安全保障の問題は指摘されていた(「中国原発の技術とカネにすがる英国のお寒いエネルギー事情」)。前キャメロン政権は、その安全保障上の問題も検討し中国との事業推進を認めたはずだ。ただ、今年になり米国でCGNの社員がスパイ容疑で逮捕される事態があり、新政権がより慎重になっている可能性はある。
安全保障問題以外に、英国政府が認可を再検討せざるを得ない理由があるのではと思われる。その一つは、メイ政権が打ち出した産業振興策、製造業復活だ。そのためには、エネルギー・電力に価格競争力がなければならない。英国政府が約束したヒンクリーポイントCからの電力の買い取り価格が高く、産業の競争力に影響を与えるという指摘がありそうだ。
もう一つは、英国が熱心と言われている地球温暖化、気候変動問題への取り組みだ。EU離脱派の主要幹部は温暖化懐疑論者が占めていた(「トランプ似の前ロンドン市長もトランプも温暖化懐疑論者なのはなぜか?」)。メイ首相自身も以前は温暖化問題に熱心だったが、最近は全く発言しないと言われている。温暖化対策を進めるためには原発は必須と考えていた前政権の方針に変更があれば、原発推進の熱意は落ちるかもしれない。
キャメロン前政権は、西側諸国では中国と最も親しいと言われ、ヒンクレーポイントC原発は英中蜜月の証明でもあった。EU離脱により、英国新政権は中国との貿易条件などの交渉を行うことも必要になるが、メイ新政権は、中国に対し甘くはないということもあるのだろうか。中国政府からは英中関係は岐路にあると牽制が行われている。