暗雲立ち込めるヒンクレーポイントCプロジェクト
昨年10月にCGNの参加が決まった時には、プロジェクトは順調に進むものと思われたが、その後権益の約3分の2をもつEDF社内にて本プロジェクトを巡り議論が沸騰することになった。まず、プロジェクトのリスクに関する議論がある。新たに開発されたアレバのEPR(欧州加圧水型炉)が建設されることになるが、フィンランド、オルキルオトで建設されている同型炉の工期は大きく遅れ、工費は膨らんでいる。2003年から開始された工事の完工は2018年になり、工費は32億ユーロ(3600億円)が85億ユーロ(9600億円)になっている。
ヒンクレーポイントC原発において発電される電気は、全て35年間にわたり英国政府機関が1MWh当たり9.25ポンド(1kWh当たり12.3円)で買い取る予定になっている。電力市場が自由化されている英国では、将来の電気料金がいくらになるか保証はなく、巨額の投資を必要とされる発電設備に投資を行う事業者が出てこないために、政府が電気料金を保証するのだ。
ただし、この買い取りには条件がある。いまヒンクレーポイントCの運転開始は2025年と予定されているが、2029年より遅れることになれば、35年の買い取り期間は1年ずつ縮められる。2033年までに運転開始ができなければ契約は無条件で解除される。現在行われているフィンランドでの工事並みに遅れれば、買い取り期間短縮、最悪の場合にはキャンセルもあり得るスケジュールになる。このリスクの下、180億ポンド(2兆4000億円)のプロジェクトの3分の2の投資を行うのは無謀との指摘が出てきた。
EDF労組の反対を押し切り推進を決議した取締役会
EDFは仏全土の原発58基の操業を行っているが、今年1月5%の人員削減を行った。リーマンショックが発生した2008年からキャッシュフローのマイナスが続き、コスト削減を強いられているからだ。EDF労組は組合代表の取締役を通し、ヒンクリーポイントC原発の建設から手を引くか、あるいは、仏フラマンベルで建設されている175万kWの3号基の運転が開始されるまで延期するかを提案した。フィンランドの工事と同じく工費と工期に問題がでているからだ。
2007年の工事開始時点では、36億ユーロ(4100億円)の建設費で2012年5月完成予定だったが、いま建設費見込みは105億ユーロ(1兆2000億円)、完成は2018年にずれこんだ。原子炉はオルキルオトと同じくEPRだ。まだ、一基も操業開始に至っていないEPRがヒンクレーポイントCでも利用される予定だ。EPRの操業開始を待ってからでも決断は遅くはないとの労組の意見だった。
しかし、EDF取締役会は、40億ユーロ(4500億円)の新株を発行することで資金調達を行うことを決め、7月28日にヒンクリーポイントへの投資を10対7の評決で決議する。翌29日には英国政府との調印式が予定されているタイミングだった。英国政府の調印延期はEDFにとっては寝耳に水だったが、オランド仏大統領にはメイ首相から、時間をかけ検討するのがメイ流のやり方なので理解して欲しいと、事前に通知が行われていたと一部では報道されている。