7、8年前のことだが、二酸化炭素(CO2)の排出枠取引制度の現状について聴取するためにEU本部を訪問したことがある。計画通り機能していなかった取引制度の修正案をEU本部の幹部職員から聞いたが、その時思ったのは、EU本部の官僚はわざわざ制度を複雑にすることにより、自分たちの仕事を作り出しているのではないかということだった。
同じようにEU本部の官僚の役割に疑問を持つ人は英国にもかなりいたとみて、英国の国民投票では離脱派が勝利した。離脱派の勝利を喜んだ1人は、米国共和党の大統領候補ドナルド・トランプだった。共に温暖化懐疑論に立つ離脱派首脳とトランプには思想的な共通点もある(「トランプ似の前ロンドン市長もトランプも温暖化懐疑論者なのはなぜか?」)。国民投票翌日に、スコットランドの自社ゴルフコースの改修セレモニーに出席したトランプは、「離脱は最高の気分だ」と離脱派の勝利を喜び、「離脱派と私のキャンペーンには実に類似点が多い。人々は国を取り戻し、独立を望んだ。これから同じことが何度も起こることになる」とコメントした。
トランプを調子づかせた離脱派の勝利だが、英国とEUのみならず、世界の温暖化とエネルギー政策に、これから影響が出てくることになりそうだ。結果として日本の原子力発電関連企業にも影響が及ぶ可能性もある。その影響がプラス、マイナス、どちらになるかはキャメロン政権の後継者次第だ。
温暖化対策・パリ協定のEU案は見直し
英国はどうする?
昨年末に開催された気候変動枠組み条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)において、産業革命以前からの気温上昇を2度、可能ならば1.5度に抑制するためのパリ協定が合意された。目標達成のために各国、地域は温室効果ガスの排出量に関する目標をUNFCCC事務局に提出し、5年毎に見直すことになった。日本も2030年に2013年比26%削減の目標を提出済みだ。米国は2005年比2025年に26%-28%削減、EU28ヵ国も1990年比2030年に40%削減の目標を提出済みだ。
何年を基準に削減を行うか、基準年が日米欧で異なるのは、温室効果ガス排出量が過去ピークだった年が異なるからだ。1989年にベルリンの壁が崩壊したEUでは市場経済に移行した東欧諸国での旧式の設備の入れ替えによりエネルギー効率が改善し、1990年から温室効果ガスが大きく削減されることになった。2000年代後半からシェール革命により発電部門において石炭から天然ガスへの燃料転換が行われた米国では、2000年代後半から温室効果ガスの排出量が削減されることになった。どの国も地域も過去のピーク排出量を基準年に設定していることが図-1からも分かる。そうすれば削減量を多く見せることが可能だ。