EU議会では原子力・シェールガス支持派が減少に
ドイツの脱原発政策がマスコミで取り上げられたことから、欧州は脱原発と誤解している人が多いが、ポーランド、ルーマニア、チェコなど東欧諸国を中心に多くの新設計画がある。さらに、北欧ではフィンランドが新設を計画しているが、今年6月にはスウェーデン政府が既存原発10基の建て替えを認めると発表し、北欧でも新設と建て替えが進むことが明らかになった。
スウェーデンは、1980年に2010年までの脱原発を宣言するが、発電コスト、温暖化の問題を考慮した結果、1998年に2010年廃炉の方針を転換し既存原発の利用継続策に踏み切る。一方、徐々に原発の比率を削減し2040年には再エネ100%で発電を行うことを政府目標として発表している。現状でも全電力需要量の約半分を水力発電で供給していることから政府は再エネ100%も可能と見込んだのだろう。
しかし、風力などの再エネによる発電では安定的に電力を供給することが難しく、バックアップに天然ガス火力発電設備が必要になり、結果電気料金が大幅に上昇するとの試算が出されたこともあり、政府は既存の原発10基の建て替えを認めることにした。建て替えが行われれば、2040年にも原発は残り、再エネ100%との目標達成は不可能になるが、政府は原発の稼働を容認するとしている。
EUでは、東欧、北欧を中心に原発推進の動きが活発だが、英国のEU離脱により欧州議会では原発支持、シェールガス開発支持勢力が減少することになりそうだ。欧州議会の投票行動の分析を行っているNPO・ボートウオッチによると、英国離脱の影響は次のようになる。
欧州議会では、原子力支持、シェールガス支持が多数派だ。例えば、既存・新設の原子力発電設備への補助金あるいは公的支出を段階的に廃止する法案の投票結果は、賛成248対反対419だった。英国出身の議員がいなくなると、この採決は239対360になる。シェールガス探査を禁止する法案への賛成は289、反対388、棄権25だった。英国出身議員の票を除くと、結果は賛成276、反対329、棄権25になる。
英国離脱後も、原子力支持派は60%を占めることになるが、シェールガスの探査支持派は52%に落ち込んでしまう。今後のEUのエネルギー政策に英国の離脱は少なからず影響を与えることになるだろう。また、英国はEUの法令に縛られることなく、自由にエネルギー政策、原子力、シェールガス開発を進められるようになる。
英国のEU離脱が自国の温暖化・エネルギー政策、さらにはEUあるいは世界の温暖化・エネルギー政策にどのような影響を生じさせるかは、キャメロン首相の後を継ぐ新首相に誰が就任するかによる面も大きい。新首相に注目したい。
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