「『全部こみこみで4千円です』と説明して客9人を入店させたが、支払いの段階で『このままじゃ終わらねえぞ』などと威圧的に話して約266万円を取り立てた」(日経新聞2015年6月16日夕刊・本書より抜粋)————この新聞記事に典型的に見られるような新宿・歌舞伎町での「ぼったくり」に関するニュースは後を絶たない。最近では警察が以前より積極的に介入するようになってきているとも報道されているが、それでは、そうした介入にもかかわらずなぜぼったくりはなくらないのだろうか。そしてこのぼったくりを生み出し続けている歌舞伎町という街は、いったいどのような構造になっているのか————。
『歌舞伎町はなぜ〈ぼったくり〉がなくならないのか』(イースト新書)を2016年6月に上梓した首都大学東京都市環境科学研究科特任助教の武岡暢氏に話を聞いた。
――今回の本では、日本を代表する歓楽街である歌舞伎町とぼったくりについて書かれています。アメリカで大ベストセラーとなった『ヤバい経済学』(東洋経済新報社)には売春婦のヒモであるピンプについて書かれていたと記憶していますが、歓楽街そのものの研究というのは珍しいのでしょうか?
武岡:海外では『ヤバい経済学』の著者であるスティーブン・D・レヴィットの相棒で、社会学者のスディール・ヴェンカテッシュがスラムのギャングや地下経済などの研究を行っていて、日本でも『ヤバい社会学』や『アメリカの地下経済』(日経BP社)という本が翻訳されています。また関連する学術論文もあり、ヴェンカテッシュの仕事は歌舞伎町について研究する際に参考にできる数少ない先行研究でした。
彼が共著者とともに書いたある論文では、75名の入居者のうち50名がセックスワーカーであるというシカゴ大学近くのアパートで、セックスワーカーを全数調査しています。セックスワーク研究が日本に比べて盛んな海外でも彼のような調査は珍しく、ほとんどの研究が売春という現象や売春婦という主体に焦点を当てたものです。セックスワークが行なわれている場所や空間に焦点が当たることはほとんどありません。