2024年12月19日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2016年9月5日

 日本でも都市社会学や地域社会学といった都市や地域の空間を扱う社会学の領域では、歌舞伎町よりもっとスケールの大きな自治体レベルの研究が盛んです。より小さい街頭の空間などが取り上げられることも時折ありますが、600メートル四方の歌舞伎町という中途半端なスケールの空間の研究は珍しいと思います。

 私自身はそもそもぼったくりという「犯罪」について興味があったわけでなく、歌舞伎町全体の社会構造がどのように維持・再生産されているのかということをテーマに博士論文を執筆しました。

――武岡さんは歌舞伎町のある新宿区育ちとのことですが、歌舞伎町にどんなイメージを持っていたのでしょうか?

武岡:西武新宿線沿線で生まれ育ち、それこそ中学生の頃は、自転車に乗って映画を観に行くところという意識で、当たり前にある街でしたね。大学院生になってから研究のために歌舞伎町で働くキャバクラやホストクラブ、客引きの人たちと実際に接するようになって、皆さんがすでに社会学者といった感じで、冷静に自分たちで自分たちのことや周囲の社会を分析していることを知りました。調査前にわずかに抱いていた「刹那的」とか「無自覚的」とかいったイメージは、偏見に過ぎなかったことが分かりました。

――1冊にまとめた今、歌舞伎町は一言で表すとどんな街でしょうか?

武岡:難しいですが、「不透明な街」、でしょうか。それは完全に透明に中身を見通せるわけではないけれども、かといって全く推測出来ないわけではなく、何かはあるのだけれど何があるのか不明であるというような意味で、です。

 近代以降の都市がそもそもそうした意味で不透明な存在であるとも言えますから、歌舞伎町は典型的な都市的空間なのではないか、というところが社会学者としては面白いところです。

――では、その不透明な街である歌舞伎町は世界の歓楽街と比べてどんな特徴がありますか?

武岡:一方でそもそもキャバクラなどの接待型風俗営業は世界的には極めて珍しいもののようです。他方の性風俗では、日本も含め世界中でデリバリーヘルス形式、つまりウェブや電話で自宅やホテルなどに女性を呼ぶ形式が支配的になりつつあります。このデリバリーの形式を本書では「オフ・サイト型」と名づけました。


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