2024年7月16日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2016年9月5日

 また調査の中で客引きにインタビューしたところによれば、例えば「5万円で未成年と違法な性行為が出来る」と客引きに声を掛けられて、それに付いて行く客がいます。歌舞伎町という街の性質上、そうした違法な性サービスが「絶対にない」とは言い切れないという気持ちになってしまうのでしょう。5万円という値段も、高いけれども、多少の余裕がある人ならば行ってみるかという値段かもしれません。街にある程度の広さがあり、小さな雑居ビルが立ち並び、警察もそんなに頻繁に査察を行っていないという歌舞伎町の性質は、人びとの心に「何かあるかもしれない」という心理を生み出します。

 歌舞伎町が不透明であるというのは、単に働いている女性が外から見えないということだけではなく、社会構造の面で不透明であるということのほうが実はより重要です。例えば住宅やオフィスビルのように、物理的に外から見通すことができなくても、内部の社会構造がなんとなく分かっていれば、中にどんなものがあるかということは大体分かります。歌舞伎町の場合、物理的にも社会的にも「見えない」というところが特徴で、これは現代社会においてはかなり珍しい街だと思います。現代では、海外ですら事前にグーグルストリートビューで散歩してみることも出来ますし、豊富な情報から社会構造もある程度の予習や類推が可能だからです。

 ところが歌舞伎町は日本に住む人びとにとってすらまだまだ分からないところが残っているという意味で、レアな街なのだと言えます。そして、こうした不透明性がまさに歌舞伎町の魅力の大きな源泉でもあるところが、ぼったくりという問題の皮肉であり、興味深い点でもあるわけです。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る