安保激変

2016年9月20日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

緯度も軽度も不明確な「九段線」
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 中国はこの仲裁手続きを「無効」と主張し、裁定内容も「紙くず」と呼び無視しているが、国内では外交上の失敗に批判が高まっている。安倍政権が「法の支配」を唱えて、南シナ海問題で中国を批判していることは、中国共産党指導部にとって、傷に塩を塗られたと感じているようなものだ。

 8月上旬は、中国共産党の指導者や長老らが集まる「北戴河会議」が開催されるタイミングでもあった。この非公式の会議は、党大会で党内の対立が露呈するのを避けるための事前調整の場である。2017年の共産党大会で、習近平総書記、李克強首相以外の常務委員5人が交代するが、この会議で指導部人事や重要議案の内容がほぼ固まるとされている。

 8月上旬に中国が尖閣諸島に政府公船を集中させたのは、この「北戴河会議」で指導部が突き上げられないよう、中国国内向けに実効支配を強化していることを一時的にアピールするためだったと考えられる。習近平指導部は国内の権力を固めるために、反腐敗運動を強行し、周永康元中央政治局常務委員をはじめ、政敵を失脚させてきた。だが、来年の党大会に向けて、指導部としてはさらに足元を固める必要がある。そのような中、中国はとりわけ日本との関係には敏感になっている。

 南シナ海での失点を覆い隠すように、中国では仲裁手続きを始めたフィリピンと並んで、日本を批判する論調が高まっている。つまり、中国国内の批判が習近平指導部に向かないようにするため、中国外交が失敗したのではなく、「部外者」である日本が南シナ海問題を複雑にしているという虚構を作り上げようとしているのである。

 国連海洋法条約に基づく中比の仲裁手続きでは、最終的に仲裁裁判の判事を国際海洋法裁判所の裁判長が選ぶことになっているが、それが偶然日本人の柳井俊二氏であったことも中国の日本批判に利用されている。

 8月下旬には王毅外相が日中韓外相会談のため来日を予定していたため、その前に日本に対して弱腰と言われないため強気の姿勢を示しておく必要もあったのであろう。そのためか、1週間ほどで中国公船の数は減少した。

「3・3・2方式」から「3・4・2方式」へ

 しかし、その後の領海侵入にはこれまでとは異なるパターンが見て取れる。12年9月に日本政府が尖閣諸島の3島を民間の地権者から購入した後、中国はしばらくの間、中国公船の尖閣周辺への派遣を激増させたが、次第に公船の数と領海侵入の頻度が安定し、毎月3回、3隻の政府公船が2時間領海に侵入する「3・3・2方式」に落ち着いていた。これが、中国が26隻態勢で断続的に日本の実効支配に挑戦する上で持続可能なパターンなのだと考えられていた。

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