安保激変

2016年9月20日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

8月に入り急増した中国公船等の領海・接続水域への侵入(左軸が接続水域、右軸が領海への進入回数(2016年の数値))
出所:海上保安庁資料を基にウェッジ作成
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 だが、8月以降、領海侵入は4隻が2時間行うようになっており、少なくとも「3・4・2方式」への変更を試みているようにみえる。これは、中国が常態的に尖閣諸島の主権をめぐって日本への挑戦のレベルを一段階上げることを意味する。場合によっては、より領海侵入の頻度を上げ、「4・4・2方式」としてくるかもしれない。そうすることで、中国はこれ以上日本が南シナ海問題に介入してくることを牽制しようとしているのであろう。

 だが、日本にとって南シナ海問題は海上交通路として、そして何より海洋法秩序の維持という観点から極めて重要な海域である。南シナ海で中国の一方的な現状変更を容認すれば、海洋法秩序が崩壊し、それは東シナ海問題をより悪化させることにもなる。このため、日本は毅然と南シナ海問題でも法の支配を主張するべきである。そのためには尖閣諸島・東シナ海で中国の挑戦に有効に対処していかなければならない。

中国軍機に対するスクランブルの回数は過去最高 (各年度の第一四半期の航空自衛隊戦闘機によるスクランブルを比べた場合) 
出所:防衛省資料を基にウェッジ作成
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 日本は東シナ海における中国の挑戦に対処するため、「統合機動防衛力」構想の下、陸海空自衛隊による南西諸島防衛を強化してきた。また、平和安全保障法制の制定と日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定により、日米同盟の抑止力も強化した。それでも、6月には中国艦船が初めて尖閣諸島の接続水域を航行する事案があったし、4月から6月に航空自衛隊が行った対領空侵犯措置(スクランブル)は199回と前年度同時期と比べて大幅な伸びを示した。 

 このため、引き続き、南西諸島周辺における警戒監視や対艦・防空能力の向上、高速揚陸艇の導入などによる陸海空統合輸送力の一層の強化が求められる。中国軍との不測の事態を避けるための「海空連絡メカニズム」の早期運用も不可欠だが、日本が公海とその上空での運用を提案したところ、中国が同メカニズムを尖閣の領海・領空でも適用することを主張し、合意できていない。海空を切り離して、「海上連絡メカニズム」を先行させるなど、異なる発想が必要であろう。

 より喫緊の課題は、グレーゾーンにおける危機管理である。東シナ海において、軍事バランスは依然日米に有利な状況が続いている。このため、中国は軍事的手段ではなく、漁船や海上民兵、政府公船を利用し、グレーゾーンにおいて日本への挑戦を続けている。

 海上保安庁は巡視船12隻からなる尖閣専従態勢の運用を開始した。だが、これは常時3隻の中国公船を監視するための数であり、中国側が「3・3・2方式」をさらに高めてくるのであれば、海上保安庁もさらに増強する必要がある。

 中国の海上民兵の実態は不明な点がまだ多いが、その動きにも注意が必要である。おそらく、今回中国公船と一緒に領海に侵入した漁船は海上民兵によるものであったと考えられる。他方、今回尖閣に大量に押し寄せた漁船の乗組員の多くは、内陸部から浙江省や福建省に出稼ぎにきた農民で、船の扱いにも慣れておらず、不測の事態を起こす可能性が高い。

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