安保激変

2016年9月20日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

中国だけでなく米国にも理解されない海上警備行動

 グレーゾーン対処に関して慎重に議論するべき点は、海上警備行動または治安出動による自衛隊の投入である。事態が海上保安庁の能力を超えた場合、海上警備行動を発令し護衛艦を派遣することになり、昨年その発令が電話閣議で迅速に行えることになった。

 ただ、これは国際的な慣行ではなく、あくまで日本国内の手続きであり、日本が自衛隊を先に出せば中国が軍艦を出す格好の口実を与えてしまう。海上警備行動については米国でも理解が広がっておらず、日本に慎重な対応を求める声が依然多数を占めている。このため、グレーゾーン対処は海上保安庁による対応を優先するべきである。他方で、自衛隊法を改正し、平時から護衛艦が海上保安官同乗の下で領海警備をできるようにし、まずは尖閣周辺以外の海域で、常日頃から海上保安庁のすぐ後ろに護衛艦がいる実績を積み重ねていくことが望ましい。

 東シナ海では、尖閣諸島の問題だけではなく、中間線付近での中国の一方的な資源開発の問題もある。また、日本全体に視点を広げれば、北方領土、竹島、小笠原諸島沖でのサンゴ漁、日本の排他的経済水域(EEZ)内への北朝鮮の弾道ミサイルの着水など、海の国境周辺で問題が山積している。

 なかでも最も深刻なのが、沖ノ鳥島である。中比の国際仲裁判断は当事国のみを拘束するとはいえ、国連海洋法条約における「島」と「岩」の基準を、中国が沖ノ鳥島を「岩」と主張してきたことに何度も言及した上で示した。特に、スプラトリー諸島で最大の太平島にも「岩」との判断が下されたため、日本も沖ノ鳥島を「島」とする主張を改めるべきだという論調が国際的に出始めている。

 国連海洋法条約では、島はEEZおよび大陸棚の基点となり得るが、岩では領海を主張することしかできない。仮に沖ノ鳥島が「岩」になれば、約40万平方キロメートルにおよぶ広大なEEZを失うことになる。中比仲裁判断では、「島」の基準について、自然の状態で、人間が集団で生活でき、資源採取以外の経済活動を外部の支援なしに行えることとしている。この基準では民間人の住まない離島はほとんど「岩」になってしまう。この基準を厳格に当てはめるなら、沖ノ鳥島だけでなく、南鳥島など他の離島もEEZの基点とはなれない。

 沖ノ鳥島を「島」として守るため、日本は「独自の経済的生活」を維持できるよう沖ノ鳥島の特徴を活かす必要がある。サンゴの再生研究や波力発電の研究、沖ノ鳥島が地質学上の「不動点」であることを活かした海面上昇の定点観測などを行って、島である根拠を積み重ねることが必要である。

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■特集「国境騒然」
 ・南シナ海問題が発端の尖閣騒動 余波を受ける沖ノ鳥島、南鳥島
 ・尖閣周辺海域に現れた中国漁民の正体
 ・ガス田に東シナ海の〝目〟を設置した中国
 ・海上保安庁だけでは尖閣を守れない 待たれる「離島警備のプロ」創設
 ・図解 海に囲まれた日本 国境付近で絶えぬ争い
 ・現地ルポ 自衛隊基地配備に揺れた与那国島 次なる「震源地」石垣島の〝騒乱〟
 ・「アホウドリ」が広げた日本の領土 巨万の富を巡る無人島獲得合戦

  
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◆Wedge2016年10月号より

 


 

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