原 『グラン・トリノ』(2008年作品)とか、クリント・イーストウッドの近年の作品は脱帽ものだよね。
浜野 あぁ、こういう映画まだつくれるんだ、って思いましたね。
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原 『電車男』(村上正典監督2005年作品)って映画見たとき、発見したような気がしたのは、「好きになることがそんなに苦しいことなら、別れましょ」って、確かそんなセリフ、ね。
人間て、近づくと傷つけあうものでしょう、生きているんだから。「あぁそうか、傷つけあうことを恐れる世代が現れたんだ」、って、あのセリフを聞いて分かったの。
そう思ってオフィスを見回すと、やけに静かだよね。みんなパソコンで会話してるから。そこへいくと黒澤さんなんて、傷つけるのなんか平気だったからね。よく言われたものですよ。「手を抜くなよ」って。「考えて、考えて、考え抜いて、それで手を抜くな」と言うんですね。こういうことを言うと、――さっきのwith loving careも同じだけど、それが何か野暮ったいことのように思われるという、そういう時代なんだね。
傷つかないで、何か生まれるのか。一所懸命やってると、どっかで傷つかざるを得なくなるものでしょう。
監督とプロデューサーは夫婦みたいなもの
司会 原さんがおやりになった映画プロデューサーという仕事は、必然的に監督と衝突するものでしょう。脚本をつくって、資金調達もして、という立場なのですから。
原 『炎のランナー』(2)(1981年イギリス作品)って映画をつくったイギリスのプロデューサーで、デイビッド・パットナムて僕の好きな人がいてね。彼とはお互い若い頃、『小さな恋のメロディ』という作品を通じて親しくなったんですが、その彼がプロデューサーと監督は「夫婦みたいなもんだ」って言った。そのココロはというと、しょっちゅう喧嘩してる。でもどこかで尊敬しあってる。 だから、喧嘩しないでなあなあでやっていると、それなりの映画しか撮れないってことです。そして黒澤さんの凄いのは、相手が傷つこうが傷つくまいが、強引に自分のペースに巻き込んでしまうっていう力だったのかなあ。
浜野 黒澤さんの通ったあとは、死屍累々。
(C) 1985 角川映画
原 でもねえ、出来上がった作品見て、許しちゃうわけですよ。こういう作品つくる人だったんだからしょうがないや、って。僕自身『乱』でナン億円て借金抱えて、それでもそう思いましたもん。『乱』で思い出しましたが、クランクインして最初の撮影は、主人公の武将が住まう館の居間で、これが全面金で塗ったしつらえなんだ。やおら来た黒澤さん、一目見て「全部塗りなおせ」って言うんだよね。僕は泡食ってね、まだ40代の若造だったし。
『炎のランナー』(2)
ヒュー・ハドソン監督の第54回アカデミー賞作品賞受賞作品。1924年のパリ・オリンピックに出場した2人のイギリス青年を描いた。