2024年11月5日(火)

中東を読み解く

2016年11月7日

 過激派組織「イスラム国」(IS)の事実上の首都であるシリア・ラッカの解放作戦が始まった。作戦を担うクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が6日発表したものだが、”絵”を描いているのは米国だ。シリアのアサド政権、軍事介入しているトルコはクルド人中心の作戦に猛反発しており、前途は多難だ。

何を約束したのか

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 ラッカ解放作戦の突然の発表はオバマ米政権の意向を強く反映したものだ。隣国イラクのモスルでも現在、米軍支援によるイラク軍の奪還作戦が続いており、任期が3カ月余りとなったオバマ大統領の思惑は、モスルを制圧してイラクからISを一掃すると同時に、ラッカ解放の道筋を付けて次期大統領にテロとの戦いを引き渡したいというものだろう。

 しかしシリアは内戦状態。中央政府が存在し、ISとの戦いの中核になる政府軍があるイラクとは状況が全く異なる。アサド政権は国土の半分も支配していない。シリア政府軍もロシア軍、イラン革命防衛隊、レバノンの武装組織ヒズボラなどの支援でどうにか戦闘を続けているというのが実状だ。

 オバマ大統領は地上戦闘部隊を紛争地に派遣しないことを公約にしているため、シリアの対IS地上作戦は米国が最も有能な武装勢力とするクルド人組織「人民防衛隊」(YPG、3万人)頼みとなっている。米国はYPGとシリアのアラブ人勢力を糾合して「シリア民主軍」(SDF)を創設させ、ラッカ攻略を担わせようとしてきた。

 ラッカは元々、アラブ人の都市。民族が異なるクルド人にとってはよそ者の土地の話だ。従ってYPGは作戦の最終段階で、最も激戦となるラッカ突入を積極的に主導するつもりはない。この辺の事情は米国も十分承知しており、突入は元のラッカ住民ら約5000人のアラブ人部隊が中心になる見通し。

 だが、アラブ人部隊は士気も弱く、実戦経験も乏しい。このため米国はアラブ人を鼓舞して武器を供与し、シリアに投入している約300人の特殊部隊が訓練を施している最中だ。米国としては実戦を経験させながら、突入に耐えうる戦闘員を育てていく「オン・ザ・ジョブ・トレイニング」計画だ。突入に至るまでは、YPGの力を借りるしかない、というのが現実である。

 シリア内戦とISの台頭の混乱のスキに乗じて悲願のクルド独立国家を目指しているクルド人は政治的な見返りもなしにアラブ人の都市を奪還するため自らの血を流すほどお人好しではない。「米国がクルド人に裏で何を約束したのかだ。独立国家とまではいかないにせよ、将来の自治政府発足を支持するということではないか」(ベイルートの消息筋)。


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