2024年11月5日(火)

WEDGE REPORT

2016年10月28日

 過激派組織「イスラム国」(IS)に対するイラク・モスル奪還作戦が続く中、欧州でISによるテロが切迫しているとの懸念が高まっている。追い詰められたISの報復と陽動戦術だが、米国はこうしたテロを阻止するためISの首都、シリア・ラッカの制圧作戦も「数週間以内」(カーター国防長官)に開始する考えだ。

モスル市内(GettyImages)

イラク駐留米司令官が警告

 米軍支援の下、イラク軍のモスル奪還作戦が始まって10日。ISは自爆テロなどで激しい抵抗を見せているものの、拠点にしていたモスル周辺の村々が次々に陥落、すでに「900人の戦闘員が死亡」(仏メディア)と、その劣勢は覆いがたい。イラク軍がモスル市内へ突入するのも時間の問題だろう。

 しかしこうした奪還作戦が進めば進むほどフランスやベルギー、ドイツなどこれまでISのテロ攻撃を受けた欧州各国の懸念は逆に強まる一方だ。軍事的に追い詰められたISがモスル攻撃に対する報復や、攻撃の矛先を鈍らせる陽動作戦のため、欧州でテロを起こす危険性がそれだけ高まるからだ。

 イラク駐留米軍タウンセンド司令官はこのほど、具体的な内容の言及は避けながらも「西側に対するISのテロが切迫している」と警告した。ドイツでは9月、米情報機関からの情報に基づき、ベルリン空港で爆弾テロを計画していたシリア人難民を拘束。男の自宅から大量の爆発物を押収して未然にテロを防いだが、欧州の治安当局者はモスルの奪還作戦の開始でテロに一段と警戒を強めている。

 治安当局はISが既に欧州全体に多数の工作員を“休眠細胞”として潜入させており、ネットや携帯を通じてテロ指令を出す恐れがあると見ている。またISが劣勢になってからは、さまざまなルートでシリアから欧州に舞い戻る戦闘員が増加する傾向にあることも大きな懸念要因だ。

 欧州からシリアやイラクに渡航してISに加わった戦闘員は約5000人。「こうした戦闘員をすべて殺害するわけにはいかない。どうしても一部は網の目をかいくぐって帰国し、テロを起こす」(ベイルート筋)。モスル奪還作戦の開始直前に同市から逃走した者もいる上、今後の戦闘で発生が予想されている100万人規模の難民に紛れて脱出を図る戦闘員が増える危険性がある。

 テロの脅威の高まりの中、米主導の有志連合国防相会議が10月25日パリで開かれ、モスルに続いてラッカの制圧を目指す方針を決めた。米国はすでに制圧作戦を策定しており、数週間以内に作戦を発動したい考えで、シリアに配備されている特殊部隊が準備を開始している。

 作戦は第1段階としてラッカへの空爆を強化、ISの指揮管制センターなどを破壊。第2段階はラッカの孤立化をさらに進め、第3段階としてシリア人武装勢力が市内に突入するというのが大筋のシナリオだ。


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