立ちはだかるトルコ
しかしこの作戦にとって大きな難題が2つある。1つは突入作戦の主戦力とされるシリア人武装勢力の力不足だ。米軍は地上戦闘部隊を投入しない方針なので、対IS地上戦はこれまでこのシリア人勢力とクルド人武装組織(YPG)による「シリア民主軍」(3万人)が担ってきた。
だが、シリア人勢力は約3000人と少ない上、練度や士気が低く、ISとの戦いはYPGが中心。米国はYPGに武器を供与するなど支援し、最も信頼できる組織として協調関係にあるが、YPGはラッカへの突入はあくまでシリア人勢力の任務として、一歩引く構えを示している。
YPGがラッカ制圧に消極的なのは「ラッカはあくまでもアラブ人の町。クルド人にとっては血を流す意味がない」(同)からだ。その上、YPGを力で封じ込めようとするトルコの存在がある。これが2つめの難題だ。
トルコのエルドアン大統領はクルド人の勢力拡大を自国の安全保障上の脅威として断固容認しない考え。8月にシリアに軍を侵攻させ、YPGと砲火を交えた。米国はYPGとの関係を見直すようトルコを説得しているが、うまくいっていない。
トルコ軍はシリアだけではなく、イラク北部にも1年前から進駐。同北部に拠点を持つトルコの反体制クルド人組織PKKににらみを利かせている。しかも同大統領は、モスルが第1次世界大戦前、オスマン・トルコの支配下にあったことから「トルコはモスルに歴史的な責任を持っている」と主張。モスル奪還作戦へ介入する意向をあらわにし、これに反発するイラクとの緊張が激化している。
モスル奪還作戦の混乱の中、ISが人間の盾にしていた「住民約200人を虐殺した」(国連)など凄惨な面も明らかになりつつある。住民数千人が人間の盾として連れ去られたとの情報もある。今後、戦闘が激化すれば、子供を含めた住民の被害は甚大なものになるだろう。
情勢はトルコとクルド人、イラクとの対立など複雑化しているのに加え、欧州でテロが起きるようなことがあれば、事態はさらに混沌としたものになるのは必至だ。「モスルやラッカはパリやブリュッセルと直結していることを忘れてはならない」(ベイルート筋)。
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