「この技術は世界を変える可能性がある」そう信じてドイツ人投資家でコンサルタントのガブリエル・ヴィーバック氏は、オレゴン州ポートランドのスタートアップ企業、キメラ社への投資を決意、同社の取締役に就任した。世界を変えられる技術とは何か。キメラ社の創設者兼CEO、モウニール・シータ氏がAIワールド・エキスポ会場で同社が開発するAGI(Artificial General Intelligence)「ナイジェル」のデモンストレーションを行った。
シータ氏は「AIはもう古い。AIでは儲けを生み出すビジネスモデルは構築できない」と言い切る。例として挙げるのが米企業ブロックバスターとネットフリックスの差異だ。この2つの企業は元々ビデオなどの貸し出しを行うライバル企業だった。しかしブロックバスターが小売店での貸しビデオにこだわる間に、ネットフリックスはコンテンツダウンロードによるストリーミングへとビジネス形態をシフトさせた。その結果、ブロックバスターは倒産、ネットフリックスは今日隆盛を極めている。
目的を設定することができるAI
AIそのものがまだ黎明期にある新しい技術として注目される中で、それを古いと言い切る理由はズバリ、「現在のAIはタスク目的のアルゴリズム構築が主流である。しかしAGIはゴール(目的)を設定するだけのシングルアルゴリズムにより自分で成長することができる。タスクはゴールに到達するためのプロセスでしかない」ためだ。
現在のインターネットはパッシブ(受け身)である。中核にグーグル、フェイスブック、ヤフーその他が存在し、そこからアプリ、エンドユーザーへとクラスターが伸びる。この中で結局敗者となるのはデバイス製造業社とネットワークオペレーターだという。なぜなら普及に伴いデバイス価格はどんどん下り、ネットワーク使用料もまた下がる。金を生み出すのはデータコレクターである中核の企業だけ、ということになる。
シータ氏によると、2004年の時点でグーグルアンドロイドとコネクトできる車のシステムをすでに作っていたメーカーがある、という。しかしこの自動車メーカーは市販化を躊躇していた。なぜなら全ての顧客データなどがグーグルに流れることを警戒していたためだ。
しかしシータ氏は当時から「デバイス同士のコネクト」を提唱し、2005年からAGIシステム、ナイジェルの開発に取り組んできた。今年8月からベータ版のテスト運用を行い、デバイス製造企業にナイジェル埋め込みシステムの販売を打診している。「もし1兆のデバイスが相互にコネクトできればスーパーAIが誕生する」と言ったのはソフトバンクの孫正義会長だが、シータ氏はそれを実現しようと考えていた。