IBMワトソンは2011年にアメリカのクイズ番組ジェオパディに出場し、人間を差し置いて優勝したことで有名になったAIシステム。それまでにチェス、将棋ではAIが人間に勝利していたが、これらはボードゲームでありゲームのルールを徹底的に教えこむことでAIを訓練できた。しかしクイズ番組は質問内容を的確に理解し、答えを見つける、というより人間の頭脳に近い作業である。そのワトソン開発に携わったIBMのCTO、ロブ・ハイ氏がサンフランシスコで開催されたAIワールド・コンベンションでワトソンの現在についてのプレゼンテーションを行った。
コグニティブ・インテリジェンス
ワトソンはその後も進化を続けているが、現在IBMが目指す方向は「コグニティブ・インテリジェンス」だ。文字通り人間の認識力を備えたシステムの実現。人間の会話を理解するだけではなく、そこから合理的な答えを導き、それに基づいた返答、会話への介入を行う。このところ米国で急速に増えている、会話ロボット「チャットボット」の一種だが、テキストを通してではなく自然に人間の会話に加わり必要とされる作業を自分で見つけ出す、という点が大きな違いだ。
これを実現するためには通常の会話から「会話者がどのような心情にあるのか」「声の調子などから表現を引き出す」「会話者の性格を理解する」「会話者が属する団体についての深い理解を持つ」などの高度な機能が必要となる。
プレゼンテーションではワトソンのデモビデオが公開されたが、人の背の高さほどの巨大スクリーンの前で2人が企業の営業について会話、それにリアクションを起こしたワトソンが「どのようなご用件でしょう」と自然に会話に参入し、「こういう条件の企業のリストが欲しい」というリクエストに答えてスクリーンに企業リスト、企業同士の関連性を示すクラスターモデルなどを表示。そこから会話者が「もう少し絞り込んだリストが欲しい」「各企業の詳細情報が欲しい」と指示すると、それに対応した情報が分割画面に現れる、といったもの。
会話のトーンそのものはやはり「人ではない、機械だ」と感じさせる平坦なものではあるが、受け答えは非常にスムーズで会話者の意図を正確に理解している。コグニティブ・インテリジェンスは今後も成長を続けると見込まれる分野だ。
この「音声会話ボット」は、IBMだけではなく多くの企業が開発に参入している分野でもある。グーグルがAIによる会話を目的に創りだしたユニット、api.ai社のイリヤ・ゲルフェンバーン氏はこの「カンバセーションUX」の開発担当者である。
同氏は、「なぜカンバセーションUXに期待がかかるのか」について、
1、アクセシビリティ。高齢者やITデバイス初心者であっても話しかけることで捜査ができるため、ITの恩恵を受けやすい。
2、システムによる利用者への理解度の高さ。会話を通じてシステムに個人の背景、嗜好などを教えこむことが出来るため、個人に特化したサービスを得られやすい。
3、パーソナリティ。会話することにより、一般的なウェブサイトなどから情報を得るよりも個人的な体験として受け止められやすい。
の3点を挙げる。