2024年11月26日(火)

佐藤悦子 バランス・マネジメント

2010年3月24日

 たとえば芸能人やスーパースターが、ではなく、ごく一般の働く女性たちが見事なバランスを可能にしている姿を目の当たりして、とてもびっくりしたのと同時に、勇気と励みになりました。「私にもできることなんだ」と、仕事と家庭の両立に対する気負いがとれ、大きな視点の転換となったのです。

大切なのは、相手を尊重し、理解すること

 一方で、このころに「仕事の現場では、いかに平静さを保つことができるかが大事」ということも覚えました。

 女性の多い職場環境であったために、とかく感情的になりやすい女性同士が、会議でヒートアップすると、とても収集のつかない状況になることを目撃したこともありました。男性からすると「だから女はダメなんだ」と言いたくなるのもわからないでもないような場面でした。

 はじめは自分たちの会社にとって、最もいい着地点を見つけることを目的として議論をしはじめたはずが、だんだん感情がいりまじってくるうちに、いつの間にかそのゴールが相手を打ち負かすことにすりかわってしまっているかのような、バトルがくりひろげられ……。

 そんなふうになってしまうと「この人を怒らせると、コワい」と周りの人たちに厄介に思われたりして、率直なコミュニケーションを引き出しにくくなってしまいます。そうすると、本来は自分の身の回りで起きていることに対しても、気づきにくくなり、見るべきものも、見えなくなってしまうでしょう。

 ビジネスの発展のカギを握るのは、いかにスムースに議論を展開させることができるかであり、そのためにも相手の立場を理解し尊重することができるか、そのうえで自分の主張を展開することが重要なのだと肝に銘じた経験でした。

最高の環境を整えることが、マネジメントの役割

 2回目の転職は、『クラランス』から同じくフランスの化粧品ブランド『ゲラン』に移りました。ここでは、ブランドの顔となるトップクリエイターとの接し方を学びました。

 当時ゲランにはゲラン家4代目調香師のジャン・ポール・ゲランと、毎シーズンのメイクアップコレクションをクリエイトしているメイクアップアーティストのオリビエ・エショード・メゾンが、ブランドの顔として存在していました。ジャン・ポールやオリビエの類まれな才能から生み出される卓越したフレグランスやルックが、ゲランというブランドの真髄を支えていたのです。もちろん、フランス本社の経営方針や各国のマーケティング戦略もありますが、やはりフレグランスメゾンがルーツであるゲランにとって、クリエイターが発信するイメージは最も大切にすべきものでした。そこで学んだことがクリエイターがクリエイションに集中できる最高の環境を整えることがマネジメントする側の義務であり、基本的な役割だということです。

 「あなたは最高のクリエイションをする人だから」というリスペクトをもって周りが接することで、最高のパフォーマンスを発揮できる空気を高めていくことが、いかに重要であるか。そのために、どのような心構えでクリエイターをサポートしていけばいいのかを、徹底的に身につけることができました。

 これは現在の仕事でご一緒する多方面のクリエイターの方々とのコミュニケーションを円滑にすることに非常に役立っています。

 来週はいよいよ、最終回です。最後は昨夏私が出合った量子物理学の世界に見る、この先の美しいにちがいない世界への希望についてお話しさせていただく予定です。どうぞよろしくお願いします。
 


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