2024年4月20日(土)

対談

2016年12月8日

矢野:そうです。教育をするのは人間なので、結局は人間を育てなければいけないのですが、AI対人間の図式は「人間を育てる」という重要な側面を忘れさせてしまうんです。AIはどっかから湧いてくるものではなく、全部人間が作って人間が育てているわけですから。

 経験に学びそこから類推するアプローチの、意味までもがなくなるわけではありません。過去のデータを大量に解析し、そこから学ぶ力そのものも増幅させることができる。あらゆる経験から学べるようになるし、していない経験はシミュレーションで作ることもできる。そしてシミュレートされた経験からまた学び……という、非常にシステマティックなアプローチをできる人と、自分の周囲の経験則だけでやっていく人との差は、どんどん開いていってしまうでしょう。だから「システマティックにできる部分はどんどんシステマティックにやろう」と言わなきゃいけないのに、「機械対人間」の図式になったとたんに「私は人間だから人間らしく」みたいな話になってしまう。両方とも人間で、あるのはアプローチの違いだけなんですよ。

飯田:経験の幅を広げ、経験からの学び方も変えるのは人間自身ということですね。その話で思い出したのですが、販売データを解析している友人がいるんですが、彼いわく経験則による売れ線の認識と、実際に売れているものがだいぶ違うんだそうです。補充するタイミングなどで「これが売れている」という認識にバイアスがかかってしまうんだということでした。業界では定説だった販売のピークタイムも、実はあまり関係ない商品もある。POSデータの集積により見えてきた認知の誤りがある一方で、近所でどういうイベントがあるといった数字に現れない情報は人間の領分になる。小売店の在庫管理は、AIを活用して人間の仕事能力が向上するという典型的な事例になるかもしれません。(つづく)

矢野和男(やの かずお)
1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。半導体研究を経て2004年頃からウエアラブル技術により収集したビッグデータ分析や人工知能を活用した企業業績向上研究で注目を集める。開発した汎用AIは既に57案件に活用されている。東京工業大学大学院特定教授。文科省情報科学技術委員。国際的な賞を多数受賞。著書は『データの見えざる手』(草思社)。
飯田泰之(いいだ・やすゆき)
1975年東京都生まれ。エコノミスト、明治大学政治経済学部准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、規制改革推進会議委員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『昭和恐慌の研究』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『思考の「型」を身につけよう』(朝日新聞出版新著)、『地域再生の失敗学』(編著、光文社新書)など多数。

  
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