少し前(2013年9月)のことになるが、オックスフォード大学の教授らによる論文『The Future of Employment (雇用の未来)』で、702に分類された米国の職業の約47%が、今後10〜20年で自動化される可能性が非常に高いという衝撃的な研究結果が公表された。
これまでコンピュータによる自動化は、明確なルールに基づいて行われる定型的な仕事に限定されていた。しかし機械学習などのAI関連技術の飛躍的な進歩によって、非定形のコグニティブ(cognitive)な仕事の労働者も、コンピュータによって代替され始めるという。
コグニティブは「認知」と訳されるが、仕事をする過程で発生する事象について自ら考え、学習し、答えを導き出すことが必要とされるものがコグニティブな仕事と呼ばれる。定型的な仕事は、その仕事で起こりうるすべての条件を、人間(プログラマー)があらかじめプログラムすることができるが、コグニティブな仕事を自動化するためには、コンピュータが人間と同じように自ら考え、学習し、答えを導き出すことが必要になる。
ビッグデータから学習するコンピュータのアルゴリズムが、これまで人間の脳でしかできなかった「パターン認識」の領域に入りつつあり、その機械学習を応用したモバイルロボットは鋭い感覚と手先の器用さを手に入れ、精密な作業をこなせるようになった。論文は、広範囲の産業と職業に渡る仕事の本質が、AIによって変わりつつあると結論づけている。
弁護士の仕事が自動化される
アメリカ法曹協会(ABA)によれば、米国の弁護士の数は年々増え続けており、2016年には130万人を超えた。しかしロースクール(法科の大学院)への入学者は、2012年から減少に転じている。大学を卒業してからの3年間でおよそ1500万円という高額の学費を払っても、卒業後にそれに見合う職に就くことが難しくなっているという。日本に比較すると米国の弁護士の数は桁違いに多いが、米国には司法書士、行政書士、弁理士などの資格はなく、これらの仕事は弁護士が扱うことが多い。
パラリーガル(弁護士の資格を持たない専門の助手)の仕事や、訴訟業務を扱う弁護士以外の、契約書作成や特許専門の弁護士の仕事の多くがコンピュータ化されつつある。『雇用の未来』では、弁護士の仕事がコンピュータによって代替えされる確率は3.5%(702の職業中で588位)だが、パラリーガルや弁護士のアシスタントの仕事については94%(同94位)という高い確率になっている。
訴訟業務においても、裁判の準備のために弁論趣意書や判例を精査することができるコンピューターが活用されており、例えばシマンテックのClearwellというシステムは、言語分析によって文書の基本的な趣旨を特定して、それをビジュアルに表現することができる。それは2日間で、57万件以上の文書を分析して分類することが可能だという。これは論文が発表された2013年時点での話だ。