2024年7月16日(火)

AIはシンギュラリティの夢を見るか?

2016年12月7日

チャットで弁護士をアシストするAI

 現代の企業では、日常的な活動情報の大半が電子処理されている。企業による犯罪や不祥事、あるいは企業間の紛争などによって企業内情報の調査が必要になると、膨大な量のデジタルデータを法的に正しいプロセスで収集して解析する必要が生じる。そのような、コンピュータやネットワークシステムのログや記録、状態を詳細に調査し、過去に起こったことを立証する証拠を集めるための科学捜査はコンピュータフォレンジック(forensic)と呼ばれている。

 コンピュータフォレンジックのデータを検索するには、トレーニングを受けてツールを使いこなす必要がある。AIリーガルボットはInCircle上で動くチャットボットで、コンピュータフォレンジックによって収集した膨大なデジタルデータから、証拠として必要なものを対話形式で探してくれる。

左から、米川氏、佐々木氏、高橋氏
 

高橋氏 どこにいてもスマートフォン(InCircle)を使って、対話形式で絞り込みながら必要な証拠を検索できるのはありがたい。

 InCircleのチャットボットは、完全な自然言語でではなく定型のフォームベースで対話をする。

米川氏 「コンピュータフォレンジックのデータの検索」という目的に特化すれば、自然言語ではなくプログラムされたフォームベースの対話の方が使いやすく効率がよい。

佐々木氏 ディープラーニング技術によって、テキストだけでなく画像解析された写真の検索も可能になった。AIリーガルボットとの対話で検索した証拠データに基づいて、AIリーガルボットに調査レポートを作成を指示することもできるようになる。高橋先生に実際に使ってもらいながら製品開発を進めている。

 高橋弁護士は大学(経済学部)を卒業後、いくつかの企業で働き、IBMでデータベース関連の仕事などを経験したのちに弁護士の資格を取得したという異色の経歴を持つ。オラクルのデータベース管理者の最上位の資格を持ち、シスコのネットワーク技術者の認定も受けている。AIのような革新的な技術で市場に変革を起こすためには、その市場に詳しいドメインエキスパートの参加が欠かせない。

 5月16日付けの米ワシントンポストは、米国の大手弁護士事務所で、破産関連の業務をアシストするロボット(AI)弁護士が採用されたと報じた。IBMのWatsonという技術を利用してROSSインテリジェンスが開発したROSSというAIは、(もちろん弁護士資格を持つ訳ではないが)経験の浅い弁護士が担当していた仕事を担当することになるという。

 これまで弁護士は、いくつかのソフトウェアを駆使して、法律を閲覧する仕事に多くの時間を費やしていた。弁護士はROSSが抽出した案件に関連する情報をもとに、ROSSと対話しながら検討を進めていくことができる。その過程を学習することによって、ROSSはその能力を向上させていくという。ROSSが破産関連の業務以外に仕事の幅を拡大することは時間の問題だろう。


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