2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2017年2月9日

激戦区シンガポールおにぎりで輸出量増

 新潟と並ぶ米どころの秋田県には、おにぎり販売店という明確な出口を確保し、輸出の割合を将来作付面積の3割台に高めたいと考えているメガファームがいる。湯沢市で184ヘクタールの農地を耕作、うち104ヘクタールでコメを作付けするやまだアグリサービスだ。

 同社は、15年からシンガポール向けのコメ輸出を開始し、15年産の「あきたこまち」を12トン、シンガポールでおにぎり専門店「SAMURICE(サムライス)」を展開するアグリホールディングス(東京都)を通じて販売した。16年産は「あきたこまち」12トンに加え、収量の多い「ちほみのり」12トンを輸出する。

 16年に輸出米を作付したのは計5ヘクタールで、コメ作付の約5%程度。それでも計24トンと、巨大経営体だけにその量は決して少なくない。

 「輸出用は最終的に、国内で売る場合の3割安くらいにしないといけないのではないか。それでも量は増やしていきたい」

 社長の柴田為英さん(65)は、周辺地域の過疎高齢化で耕作面積が年々増加しており、増加分の販路として輸出を有望視している。

 SAMURICEが順調に売り上げを伸ばし、1月中にシンガポールで2店舗増やし5店舗まで拡大するのも、後押しになっている。アグリホールディングスの手掛ける輸出量は16年には15年の3倍ほどに増加。17年は100トンの輸出を掲げている。現地ではおにぎりの手軽さと日本食はヘルシーというイメージが相まって、おにぎり販売はまだまだ成長し得るという。

おにぎりの値段は1個3シンガポールドル(約243円)ほど(AGRIHOLDINGS)

輸出にそっぽを向く農家も

 国内のコメ需要が年平均8万トン減る中、需要拡大の一手として輸出の必要性が叫ばれて久しい。18年以降、米価下落が予測されることや日本食ブームの盛り上がりが、農家の背中を押す要因になっている。特に14年産の米価暴落直後に輸出を検討した農家は多く、15年の輸出量は前年比約7割増となった。

 15年に一気に増えた輸出だが、その動きは鈍化している。

 「国内で高く売れるのになぜ安く輸出しなければならないのかと農家は考えている。コメを輸出する計画は今のところ立っていない」

 こう話すのは秋田県大潟村の役場関係者。1964年に干拓で生まれた村は、田んぼ1枚が1・25ヘクタール、1戸平均約17ヘクタールの農地を持ち、国内で最も効率的な水田農業ができる場所ともいわれる。村では16年4月、大潟村農産物・加工品輸出促進協議会を立ち上げた。コメや加工品などの輸出の可能性を探ったが、1年弱の活動を経ての結論がこの発言。加工品の輸出のめどは立ったものの、肝心のコメの輸出に乗り気な農家がいないという。

 「村の農家は価格に正直で、100円でも高い業者に売ろうとする。メリットの薄い輸出には興味がない農家が多い」

 30代農家はこう話す。

 「国内で余剰感があるのは確かだが、手取りが一切向上しないというのでは、いくら業者から輸出の話を持ち込まれても厳しい」と別の50代農家。輸出の大義は理解できるが、今の状況では踏み切れないという。


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