「魔の月曜日」。カーナビゲーションの機能デザインに携わる一部エンジニアには、休日を挟んだ月曜日をこう呼ぶ習慣があるという。何のことは無い。週末ゴルフを楽しんだ幹部が自社のカーナビゲーションを使いこなせず、週明けの月曜日に開発現場にクレームが来るからだ。
それ以外にも、「この機能って、どう使うのですか」と取引企業の幹部に尋ねられて説明できなかった某デジタルカメラ大手の幹部。バツが悪そうに開発責任者へ問い合わせてきた電話に、思わず苦笑する場面も……。
デジタル機器の機能が複雑になるにしたがって、こんな洒落にもならないエピソードが開発現場から聞こえてくるようになってきた。デジカメやカーナビなどデジタル機器を世に送り出すメーカー幹部がこんな調子だから、実際に使うユーザーの複雑な機能に対する戸惑いははかり知れない。
「ユーザビリティへの認知度がようやく上がってきた」。放送大学教授でユーザビリティの第一人者である黒須正明氏は、デジタル機器で実現できる機能範囲が広がる中で、エンジニアが便利に使えると判断する機能と実際のユーザーが感じる不便さとの差分を埋める「ユーザビリティ」という概念を90年代から提唱してきた。
安心・安全の品質から一歩進んだユーザビリティの品質(利用品質)。1999年6月にISO13407(インタラクティブシステムにおける人間中心設計プロセス)が発行されて以来、システムや製品開発にあたって「使う人間の立場に立って設計を行う」という開発手法が欧米を中心に積極的に取り組まれてきた。
日本製品といえば「安心・安全」の評判も高く、その自信に裏打ちされた製品開発に関しては、「エンジニアとしては機能実現が最大のテーマであり、その部分では技術屋としてのエゴがでる」(大手自動車メーカー)というように、ユーザー視点を謳いながら、先進機能をどう一つの製品にパッケージするかというテーマが最重要課題となってきた。
しかしこのエンジニアの思い込みが、一般ユーザーが機能を使いきれない一種のデジタルデバイド(情報格差)を引き起こす。機能満載で何をどう使って良いか分からない製品のオンパレード。製品を購入した後に一度も使わない先進機能……。こうしたユーザーにとっての不利益を埋めるユニバーサルデザイン(1)的な発想も、ユーザビリティの範疇だ。
ユニバーサルデザイン(1)
(Universal Design=UD)国籍や文化、言語、男女などの差異を問わずに利用できる製品や施設、設計(デザイン)のこと