「企業間の壁を取り払って、オフィス機器の使い勝手をよくし、どんなユーザーでも操作できるようにインターフェース(User Interface=UI)(2)のデザインを整合化した経緯がある」。オフィス機器大手の幹部は、95年から取り組んだCRX(Collaboration for Research and Exchange)プロジェクトの取り組みの意義をこう振り返る。
そもそもCRXプロジェクトは、すべてのメーカーのオフィス機器が設置される官公庁など公的機関の複写機・複合機が機能は同じでも操作性やメンテナンスなどに違いがあることから、その不満を取り除くために企業間の壁を越えて操作性の平準化やメンテナンスの提携が取り組まれた。当初はキヤノン、リコー、富士ゼロックスの3社でスタートし、2000年からセイコーエプソンも参画。
各社が構築してきたUIのデザインやそのルールなどをベースとしてユーザビリティ評価を取り入れて整合化案を検討し、それをまとめて機能の使い勝手やメンテナンスを共有化することに主眼が置かれた。
一方で、「ユーザビリティの向上はコストとの戦いであり、最後は経営判断に委ねられる」。製品開発をサポートするユーアイズデザイン社(神奈川県横浜市)の鱗原晴彦社長は、ユーザビリティ浸透の課題を指摘する。機能満載の製品が出来上がって、後付でUIを意識した仕様変更を施せば、莫大な仕様変更コストが生じる。
デジタル機器のもの作りでは、ソフトによる機能実現を作り込む過程でシミュレーターを駆使した仮想実験が行われるが、この開発過程にユーザビリティの概念が入り始めている。ユーザビリティを考慮した基本機能のプラットフォームを構築し、必要なアプリケーション機能をオプションとして付加する開発手法がコスト見合いからも主流になってきているのだ。その必要となる機能を開発する過程でも、ユーザビリティの確認は不可欠だ。
「今まではハード(製品)の地産地消だったが、これからはアプリケーション(ソフト)の地産地消を考える」。先に登場したオフィス機器大手の幹部は、複写機・複合機の基本機能のプラットフォームの上に付加されるオプション機能もワールドワイドの地域ごとで考慮する必要性を説く。確かにデジタル機器に慣れ親しんだ国や地域と、デジタル機器に馴染みの薄い新興地域のユーザーの求める機能や操作性は異なる。
「複写機・複合機に組み込まれた機能の利用履歴や使用状況などのデータを分析することで、国や地域に適したアプリケーションソフトを提供する」(同)というように、ユーザーの声無き声も常に吸収する必要があるのだ。しかし、そのニーズも国と地域の差だけではなく、時代やデジタル機器への習熟度によっても変化するという。
「本来、誤操作などユーザーのミスを、デジタル機器で補うことが当たり前の時代になってきた」。東海大学の大原茂之教授は、デジタル化進展で変わるメーカー責任の範囲の拡大に言及する。たとえばデジタルカメラの手ぶれ補正機能。本来、ブレて映るはずの画像をデジタルの補正機能によって修正する便利な機能なのだが、ユーザーのミスはメーカーがその責任を負うことになってきた。
「デジタルは万能で使いやすい」というユーザーの意識が、製品に対する機能や使い勝手の要求度を上げているわけだが、ユーザーがデジタル機器に期待する満足度が時代によって変わる典型例がある。
「ユーザーが求めるデジタルカメラの絵作り(出力)が、この10年で大きく変わった」。デジタルカメラ大手の幹部は、絵作りの変化の流れをこう指摘する。デジタルカメラの黎明期には、絵作りといえば、映すそのものの「忠実再現」(ありのまま)が要求だった。
インターフェース(User Interface=UI)(2)
ユーザーへの情報の表示やユーザーのデータ入力の方式を規定するコンピューターシステムの操作感。