1月30日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の社説は、米国のTPP撤退で、太平洋貿易で中国が米国を取って代わるのではないかとの懸念に対し、その実現性よりも、あり得るのは貿易の混乱に伴う地政学的リスクである、と論じています。その要旨は以下の通りです。
トランプが大統領になって実行したことの1つがTPPからの離脱だった。批判者たちは、米国は世界貿易における主導的立場を放棄し、その座を中国に明け渡してしまったと言う。しかし、こうした評価は、現実には当てはまらない。
多くの欧米諸国が、グローバル化の恩恵を疑問視し、内向きになりつつある。しかし、中国はこうした西側の後退で生じた空白を埋めるどころか、孤立主義に向かいつつある。確かに、習近平主席のダボス会議における演説は、グローバリゼーションを擁護するものだった。だが、中国は、外国ビジネスに対して様々な障壁を設けている。
長年、中国は世界最大級の貿易大国だが、その額はドルベースで2016年は7%、2015年は8%減少している。それに中国は国内消費を推奨し、中国経済の自給自足を強める計画を出している。
はじめからTPPから除外されていた中国は、RCEPなど一連の代替策をさほど熱意なく進めてきている。中国には多国間協定交渉の実績が乏しく、周辺国との関係も良くないことを考えると、RCEPの実現性は薄いだろう。
中国はアジア各国との間では二国間貿易協定を追求し、時には貿易を懲罰の武器として使う。韓国は米ミサイル防衛の導入を決めたせいで、非公式な貿易障壁に直面しているし、フィリピンは南シナ海問題をめぐってバナナの対中輸出を止められた。
中国は、日中韓の三カ国貿易協議を調整するのもうまくいっていないのだから、地域貿易協定を早々に妥結するなど非現実的である。中国が主導する世界経済秩序など尚更である。
トランプによるTPP離脱で生じる空白に際し、よりあり得る結果は、貿易が混乱することだ。そうした混沌とした経済状況では、核兵器の拡散や歴史問題の再燃、台頭国による領土奪還などに伴う、紛争の危険が高まるだろう。
米国の後退による最も楽観的なシナリオは、中国が迅速に地域覇権国としての役割を担い、潜在的な火種を抱える地域を安定化させることかもしれない。だが、中国にはまだその器はない。
中国、米国、アジア諸国にとって最善の結果は、平和である限り、今後も世界最速の成長力をもつアジア太平洋地域において、新たな貿易合意を結ぶ機会がまだあるとトランプが認識することだろう。
出 典:Financial Times ‘Beijing will avoid taking the lead on Pacific trade’ (January 30, 2017)
https://www.ft.com/content/fa84542e-e48b-11e6-9645-c9357a75844a