普天間基地移設や政治とカネ、高速道路の料金問題で、鳩山政権が二進も三進も行かなくなるなか、日本企業の業績が思いのほか好調だ。大手企業では最初に決算発表したキヤノンは1~3月期の純利益が前年同期の3.2倍となった。2010年1~12月の通期でも82%の増益を見込んでいる。デジタルカメラ、プリンターなど全部門が軒並み増収増益なのである。
日本電産が好調なのは、バンクーバー五輪で所属選手がメダルを得たスケートチームばかりでない。4月26日に発表した10年3月期決算は2期ぶりに過去最高益を更新した。リコール問題で揺れたトヨタ自動車も、10年3月期はリコール費用を埋め切り、営業損益が黒字転換した。3月の国内生産が前年同月の2.1倍に持ち直すなど、急回復中だ。
派遣切りなどと批判を受けながら、日本のメーカーは必死にコスト削減に努めてきた。5月20日までに上場企業1560社の決算が出揃ったが、電機や自動車を中心に減収増益の企業が相次いでいる。世界景気が上向くなかで、その成果が一気に実ったというべきだろう。企業経営の最悪期は終わった。谷が深かった分、10年度の利益の回復はかなりのピッチとなる。
例えば、日銀が3月に調べた企業短期経済観測調査(短観)。大企業・製造業の経常利益は前年度比5割の増益が見込まれている。だが、5月の決算発表の実績を踏まえると、増益幅は一段と大きくなりそうだ。政治不在でも日本企業は大丈夫といった意見も出てきそうだが、肝心な点を見逃してはならない。厳しさを増す国際競争に備えた設備投資の行方だ。
同じく短観によれば、10年度の設備投資計画は3月時点で、大幅に落ち込んだ09年度並み。業績見通しが上振れするにつれて、投資計画も積み増されていくとみられるが、元々の発射台が極めて低いところにあるのを忘れてはならない。
自国企業に油断諌める韓国メディアの論調
「資金を抱え込む大企業、積極的に投資を」。日本企業に対する本誌の提言と思われるかもしれないが、これは韓国紙『朝鮮日報』の社説の表題だ。サムスン電子の1~3月期の営業利益は約3600億円と、日本の大手電機が束になってもかなわない。現代自動車の1~3月期の純利益も900億円を上回る。LG化学、LGディスプレー、起亜自動車、大韓航空、ハイニックス半導体、サムスン電機も、同期間に驚くほどの業績を記録している。
薄型テレビや3Dテレビでのサムスンの攻勢の前に日本では韓国脅威論が広まっているが、韓国内の論調は「覇者の驕り」からはほど遠い。同紙はウォン安による輸出促進効果などを指摘しつつ、設備投資の手控えを厳しく指摘する。
韓国企業は景気の先行きが不透明だとして、新規の投資は先送りした。製造業分野の設備投資だけをみると、09年は15%もの減少を記録した。その一方で、韓国の十大企業グループが保有する現金は1年間で19%も増加し、昨年末の段階で約4兆4000億円相当に達した。今や「企業は積極的な新規投資を行い、新たな雇用を生み出さねばならない」というのが、同紙の結論である。
まことにごもっとも、と言わざるを得ない。その指摘は日本企業に対してこそピタリと当てはまる。日本でも日本電産、村田製作所、京セラなど電子部品大手が積極投資に出始めた。世界的に半導体需要が盛り返すタイミングをとらえて打って出たのだ。アップルの「iPhone」に代表されるスマートフォンの人気爆発が大きな追い風になっている。