新興国需要で世界的に荷動きが活発化している海運業界もしかり。商船三井が打ち出した10年度からの3カ年計画によれば、現在895隻の運航船数を1050隻に拡大する。船主からの借り船も含め3年間の投資額は1兆2000億円を見込んでいる。ヤマトホールディングスも首都圏の物流センターなど、2年間で2000億円の投資に踏み切る。
コスト削減により黒字を確保した電機大手6社も、10年度の設備投資に総額1兆6660億円を見込む。パナソニックが電池などのエネルギー分野を中心に4800億円、東芝も3200億円を成長分野に集中して投じる構えだ。
こうした積極投資の動きが出てきたのには勇気づけられる。それでも、全体としてみれば日本勢が韓国企業の後塵を拝しているのは否めない。
前年比16.9%増の約8兆円強─韓国の全国経済人連合会がまとめた、金融を除く主要600社の10年の設備投資は、優に2桁の伸びとなっている。メディアが尻を叩き、経営者がその流れに乗っているのだ。
今月17日には、サムスンが半導体や液晶パネルに18兆ウォン(1ウォン=0.08円、1兆4400億円)の巨額の設備投資を発表したばかりだ。
先に触れたように、日本の大企業・製造業の設備投資は、3月時点で横ばい。これでは3Dテレビ、スマートフォンなど次世代家電で水を開けられたままで、十八番だったはずの自動車でも電気自動車などでどんでん返しを食らいかねない。日本企業の経営姿勢が全般に慎重すぎるのは確かだが、経営者ばかりを責めるわけにはいくまい。
経営者が口に出せない最大の投資リスクとは
企業を取り巻く制度や仕組みが、比較にならないくらいお粗末になってしまっているからだ。例えば法人課税。日本の税率は40%と主要国中で最高。片や韓国は20%台半ばと、中国と並んで最も安い。設備投資に伴う優遇措置も比較にならない。サムスンとパナソニックを比べれば、1年間の税負担だけで新鋭工場ひとつ建設できる位の差がつく。
投資先の見当たらぬ日本企業が内部留保を抱えているのは確かだが、鳩山首相は共産党から内部留保への課税を質されて一考に値するといった返答をしてみせた。おおよそ経営者の心理など理解していないトンデモ政治家と言われても止むをえまい。もっとも、この調子で行けば日本経済が国際競争で落後しかねないと見てか、政権内からも法人税減税に言及する向きも出てきた。
好ましい動きといえるものの、肝心の財源について何の言及もない。企業の投資などを促進する目的で導入された租税特別措置を整理して、法人税減税に充てたらどうかとの意見もある。租税特別措置が乱立しているのは確かだが、片方で取って片方でオマケするようなやり方は、それこそ朝三暮四ではないか。
鳩山政権の一枚看板である温暖化対策も然りだ。日本だけが猪突猛進して温暖化ガスを25%カットするような鳩山提案にはとても賛同できないが、日本が出来る形で温暖化対策の主導権をとることは十分に考えられるし、企業の設備投資を促すことにもなる。
例えば、本誌もたびたび触れてきた石炭火力のエネルギー効率の向上。日本の石炭火力のエネルギー効率は世界一なのだから、その技術を中国に売り込んだらよい。温暖化ガスの削減にも役立つし、日本企業の技術料収入も増えるし、投資機会も広がるしで、一石二鳥、三鳥ではないか。仙谷由人国家戦略相らはようやくそうした考えを取り出したようだが、普天間の迷走で肝心の首相の目は泳いでいる。
最大の投資リスクは現政権にほかならない。多くの経営者は口に出しては言えぬそんな言葉を押し殺しているに違いない。その間にも韓国や中国との格差は開いていく。その責任を誰がとるというのか。
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