ひとり焼肉、ひとりカラオケーー。東京には、ひとりで過ごせる飲食店などが多々ある。それを「孤独」と見なす人もいる一方で、ビジネスチャンスとして注目され、「おひとり様消費」なる言葉も登場した。東京には、なぜここまでひとり空間が生まれるのか。『ひとり空間の都市論』(ちくま新書)を上梓した明治大学情報コミュニケーション学部・南後由和准教授に、その理由のほか、世界と比べた東京の都市の特徴などについて話を聞いた。
――今回の本では、なぜひとり空間に注目したのでしょうか?
南後:いくつかのきっかけが重なっているのですが、そのひとつは、最近の学生たちを見ていて、「ひとり」でいることに関して非常にセンシティブだなと感じたことです。たとえば、学食でひとりで食事をする際、「友だちがいない」と思われるのではないかと、周りの目を気にする学生が多いのです。学食では部活やサークルなどの集団が席を占拠してしまうことがありますから、「ひとり」の学生は居心地の悪さを感じるのでしょう。明治大学の学食では、テーブルにパーティション(仕切り)のある席を設け、ひとりでも座りやすいような工夫が見られます。他の大学でも同様にこうした席を設けた学食が増えています。
また、ひとりで授業を受けることに対しても、我々の学生時代はなんの抵抗もありませんでした。けれど、いまの学生はLINEやTwitterなどのSNSを通じて「いま、この授業でぼっちだ」と自虐的につぶやきます。携帯電話がスマートフォンに代わり、インターネットが常時接続の時代になったことにより、学生たちはさまざまなグループとSNSを通じて常につながるようになりました。サークルの仲間、バイト先の仲間、地元の仲間といったようにです。それゆえ、時間の単位が細かくなり、1日のうちにスケジュールをたくさん入れる傾向にあります。たとえば、サークル仲間との飲み会に1時間顔を出したら、次はバイト仲間との飲み会に出る。さらにそのあと地元の仲間と会う約束をしている、といった具合にです。同時並行で複数のグループとつながりながら生活しているのです。そのため、最近の学生たちは、忙しそうに見えます。
また以前は、時間と場所をきちんと決めて待ち合わせをしていましたが、いまはたとえば「渋谷に○時頃」とアバウトでも、移動しながら簡単に連絡を取って落ち合うことができます。簡単に遅刻や予定の変更ができるわけです。すると予定と予定の合間に隙間時間が生じやすく、ひとりカラオケや漫画喫茶などの需要が高まります。常時接続のつながりを持ち続けていれば、相互監視に常にさらされ、ストレスになることもあります。そのような心理的負担から逃避する場所として、現在の「ひとり空間」は機能しています。
このような学生自身の「ひとり」をめぐる経験について、空間という切り口から、大学で学生たちと一緒に考えてみようと思ったわけです。