――今後、ひとり空間はどう変化していくと考えていますか?
南後:これまで都市では、住宅の機能を外部化することによって、単身者の住まいが形成されてきました。コンビニ、飲食店、インターネットカフェなどがそうです。これらは、各自が家から外へ移動してサービスを受けることが前提となっていました。しかし、最近はドローンによる宅配システムや自動運転システムの進展に見られるように、各自が移動しなくても、外からあらゆるモノがやってくる時代になりつつあります。「内から外へ」というベクトルが、「外から内へ」と変わり始めています。ただし、住宅機能の一部を外部依存している点は、これまでと変わりありません。
同時に、現在はP2P(対等な者同士の通信方式を意味する「peer to peer」の略語 )のようなプラットフォームが整備されつつあります。そこでは個人と個人が、スキルなどを交換できるようになっています。20世紀は、貨幣を媒介とし、商品を購入することで他者との関係が結ばれてきました。P2Pがより整備され、オートメーション化がより進めば、働き方も変化していきます。なかには、何らかのものづくりに従事する人たちも増えてくるでしょう。その先には、消費ではなく「生産」を通じて、個人と個人がつながる回路が開けてくるかもしれません。
都市空間の文脈に沿って考えれば、P2Pによって、これまでバラバラに存在していた都市空間の余剰をネットワーク化して活用することができます。たとえば、ある人が亡くなった後、その人の蔵書が並んだ本棚を図書室のようにして開放して利用する動きがあります。友人宅などで本棚を見ると、個人の趣味・嗜好が垣間見えて面白いですよね。これまで住宅というのはプライベートな空間として閉じられ、アクセスしにくいものとしてあったわけですが、本棚と本棚がネットワーク的に接続し、その間を人びとが移動するようなことになれば、新たな近隣関係が生まれるかもしれません。
――最後にこの本をどんな人たちに薦めたいですか?
南後:ありがたいことに本書は、新書という形式もあってか、週刊誌で取り上げていただく機会が多いです。週刊誌も新書も、電車や飛行機などでの移動の合間に読むのに適したメディアという点で共通点があり、互いに相性がいいからかもしれません。
住まい、飲食店・宿泊施設、モバイル・メディアなど、都市の身近で日常的なテーマを取り上げていますので、社会学に馴染みがない人にとっても、普段目にしている都市風景を見つめ直すきっかけにしてもらえれば嬉しいですね。
一方で、社会学を少しでもかじったことがある人にとって、本書で取り上げている社会学やメディア論などの文献は、ひょっとするとベタで教科書的に見えるかもしれません。ですが、移動可能性という概念を媒介に、シカゴ学派の都市社会学を都市における「ひとり」という観点から読み直したり、シカゴ学派の都市社会学とマクルーハンのメディア論を接続したりと、学説史的にも新しい知見を提示したつもりですので、専門家の人たちにも読んでもらいたいと思っています。
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