オトナの教養 週末の一冊

2018年4月26日

»著者プロフィール
著者
閉じる

本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――江戸時代から東京には単身者が多く、かれら向けの屋台なども存在していたのですね。現在も次々とひとり空間は生み出されています。

南後:駅ビル型の商業施設が立ち並んでいる駅前の風景も日本独特です。これは鉄道会社が交通機関としての鉄道だけでなく、沿線に住宅のほか、百貨店や娯楽施設を開発してきた歴史を背景としています。阪急の創業者である小林一三がこの手法を編み出し、後に東急の創業者、五島慶太が追随します。

 駅は基本的に、家というプライベートな空間と、学校や職場の中間にあり、通学や通勤の移動中に食事を済ませたり、買い物をしたりなど、ひとりの状態になることが多い場所です。実際、駅前には、ひとりでも気軽に入れるファストフードやカフェなどの飲食店が集積しています。

 アメリカは車社会と言われますが、日本の都市部は鉄道に依存した社会です。たとえば「どこに住んでいるのか?」と聞かれると、住所である町の名前よりも、多くの人が最寄り駅の名前を答えます。つまり、駅への帰属意識が強いのです。 

 ターミナル駅など複数の路線が乗り入れている駅には、1960~70年代から地下街が発展してきましたが、近年は東京メトロのエチカに代表される駅ナカが、時間を節約して買い物や食事を済ませたい現代の都市生活者のニーズに対応するかたちで次々とオープンするようになりました。これはインターネットなどの普及によって、必要な情報やモノに、時間を短縮してたどり着きたいという欲求が恒常化するようになったという、メディア環境の変化による時間感覚の変容と関係しています。

――鉄道に依存した社会ならではの理由があるということですね。他にもラーメン店「一蘭」の味集中カウンターやひとりカラオケなども東京独自のひとり空間だと思うのですが、これらを東京が生み出した背景についてはいかがですか?

南後:この本では、日本的都市空間の特徴について、日本文化論を紹介しながら考察しました。本来は、欧米やアジアとの比較研究も必要ですが、日本に「ひとり空間」がなぜ多いのかを考えると、ひとつには韓国の文芸評論家・李御寧が言う「縮み志向」の空間化が挙げられます。それは小ささや狭さが必ずしも貧しさを意味するのではなく、茶室に代表されるような小さく狭い空間から、精神的な広がりを感じ取れることが日本文化の特徴である、という指摘です。

 また、欧米社会では、家族内でも会社内でも、個人が独立した存在として扱われる傾向にあります。一方の日本社会では、集団や組織への同調圧力が強いため、そこから離脱したい欲求が生じやすいのだと考えられます。そうした集団や組織から一時期的に離脱した状態を、匿名性のもと確保できる場が「ひとり空間」です。なおかつ東京の特徴は、ひとりカラオケや漫画喫茶などのような、「ひとり空間」への課金の仕組みが徹底しているところです。さまざまな種類の消費空間としての「ひとり空間」が集積しています。

――一時期話題となったスターバックスなどのサードプレイスとひとり空間との違いはあるのでしょうか?

南後:サードプレイスとは、自宅とも職場とも異なる第三の居場所です。欧米では、カフェは公共圏の成り立ちと結びついた場であり、地域のコミュニティの核としても機能してきたという歴史的背景があります。日本のカフェも、読書をしたり、仕事をしたりとさまざまな使い方がされています。「ひとり空間」に、ひとりでいるか複数人でいるかの選択可能性があったり、趣味・嗜好をゆるやかに共有する人たちが集まる空間でひとりでいることの心地よさを味わえるような場合であれば、「ひとり空間」はサードプレイスと重なるところがありますが、地域のコミュニティの核としてはまだ根付いていません。

関連記事

新着記事

»もっと見る