社協主導の「品川モデル」
「狭い部屋で、お茶も出さないですみませんねえ。足は崩して伸ばしてくださいね。いやあ、いつもほんとに皆さんにこうして助けて頂いて、この歳になっても幸せな毎日が送れています」
東京都品川区在住の村田昭江さん(仮名、93歳)は、柔和な笑顔で記者を4畳半ほどの自室に招き入れてくれた。アルツハイマー型の認知症を患っているが、子どもはなく、10年前に夫を亡くして以来、一人暮らし。近くに親族もいない。
こうした独居高齢者を孤立させないため、品川区の社会福祉協議会(社協)は区の高齢者福祉課などと情報を共有しながら、生活の支援に取り組む。村田さんの場合も、社協が本人に代わり「首長申立て」の制度を使い、2年前から法人として後見している。
毎週、社協の後見受任案件を手伝う非常勤の支援員2人が、村田さんの預金から2万円の生活費を届けている。それでも、「財布をなくすことも多く」(社協職員)、第三者による金銭管理が欠かせない。この日も支援員が金銭を渡したが、30分ほど世間話をした後には、金銭を受け取ったことをすっかり忘れていた。
品川区社協の齋藤修一・品川成年後見センター所長は「支援員や市民後見人の方々の存在が、地域の高齢者の生活を支えている」と話す。同センターは全国に先駆けて制度の普及啓発や市民後見人の育成に取り組んできた。成年後見に関する相談の受け付けから家庭裁判所への申し立て、後見の実施までを一括して行う「ワンストップセンター」であり、関係者の間では「品川モデル」と呼ばれている。
品川区の特徴は、社協が主体となって区や有識者、専門職らが情報を共有し、知恵を出し合う「チーム対応」だ。被後見人一人ひとりの事案に対して、3段階の審査を経て後見人のミスマッチを防ぎ、後見開始後は身上保護に重きを置きながら生活を支援する。