「母が軽度の認知症と診断され、運転免許証を返納させるか否か、家族で揉めています」
榊原史子さん(仮名、東京都中央区在住)はそう悩みを打ち明ける。76歳になる母親は埼玉県草加市に住んでいるが、最寄駅から車で15分のところに住んでおり、自動車は生活に欠かせないという。
「交通事故の恐ろしいところは、運転している本人だけでなく、何の罪もない周りの人も巻き込むことです。私としては何とか返納させたいと考えているのですが……」
高齢化した親に免許証を返納させるべきか否か─。もしくは自分自身、免許証を返納すべきか否か─。こんな悩みを抱えている方も多いのではなかろうか。
実態とは異なる
報道から受けるイメージ
2016年は交通事故死者の54.8%が65歳以上と、統計が残る以降、最も高い割合を示した。テレビをつければ、連日のように高齢運転者による悲惨な事故が報道されている。「高齢者は運転すべきでない。強制的に免許証を返納させろ」。こんな意見も目立つ。
だが、事故の詳細をみていくと、日々の報道から受ける印象とは異なる実態が浮かび上がってくる。警察庁の資料によると、05年に6165件あった交通の死亡事故が、15年には3585件へと減少している。これは高齢者を含む全事故の件数で、ここ10年ほどで4割以上も減っている。
認知症に罹患しやすくなる75歳以上の高齢運転者が起こした死亡事故件数のみ抽出してみると、05年は457件、15年は458件とほぼ横ばいだ。つまり、死亡事故全体の件数は減っているが、75歳以上の高齢運転者による事故は横ばいなので、割合が高まっている(05年7.4%→15年12.8%)ということになる。