お隣の中国がひどい大気汚染で、日本の空気清浄機が爆買いされているとネットに載るようになり数年。多くの人にとって、空気清浄機が必需品となりつつある。しかし、実際に店に行ってみると、空気清浄機にはこれでもかというほど、数値とアルファベットの略称が散りばめられている。個人的には「わかり難い家電世界一」としてギネスブックに掲載してもらうのはどうだろうかと思うほどである。
実際、空気清浄機は『規格ありき』の家電だ。花粉症の人なら、くしゃみが出ないなどで、実感するのかもしれないが、普通の人にはとにかく効果が分かり難い。このため、定められた方法でテストを行い、その結果で自分に合ったモノを選んでもらおうとする。それが規格である。ところが、その規格が違えば、当然、同じ項目、例えば適用畳数でも違う値を示す。つまり、どちらを選んでイイのかよくわからなくなるわけだ。
日本メーカーが基本的に採用している規格は『JEM1467』。JEMとは日本電機工業会規格の略称である。ところが、スウェーデンのブルーエアなどは、アメリカ他で採用されている規格を使っている。『AHAM(エーハムと読まれることが多い)』(アメリカ家電製品協会)の規格だ。その中のCADR(Clean Air Delivery Rate / クリーンエア供給率)と呼ばれる測定値が重要だ。AHAMは、アメリカ以外には、フランス、ドイツ、スペイン、フィリピン、シンガポールなどがこれを採用しており、国際的に最も使われている規格と言ってもいい。
しかし、今、一番すごい規格は、中国の新GBと呼ばれる2016年4月に施行された規格だ。世界で最も大気汚染が凄まじい中国。そこがわざわざ策定したのだ。中国内の汚染度が透けて見える規格にもなっている。
JEM1467、日本人の、日本人による、日本人のための規格
まず、日本でよく使われる規格『JIS規格』と、『JEM規格』との違いを説明したい。JISは工業標準化法に基づき、日本工業標準調査会の答申を受けて、主務大臣が制定する工業標準。Japanese Industrial Standardsの略で、日本工業規格が正式名称。法律にも裏付けられた国家基準規格だ。
JEMはそうではない。下世話な言い方をすると、関係メーカーが集まり、「こんな感じで規格を作るのはどうだろうか」と意見を持ち寄り、各社の実証データーと照らし合わせながら決めた規格であり、国は一切関係ない。
とは言うものの、基本、JEM規格が繰り上がりJIS規格になることがほとんどであるため、法的な拘束力はないものの、日本のメーカーはJIS規格に準じた規格として扱うことが多い。空気清浄機にはJIS規格がないため、JEM規格が用いられている。
また蛇足ながら付記すると、規格は、その時代、時代に応じた形で手を入れなければならない。例えば「PM2.5」。JEM規格が制定された1995年当時、一般的に流布しておらず、PM2.5に関する規格はない。しかし、今の時代PM2.5に対し訴求していない空気清浄機はない。つまりその間に規格改定がなされたわけである。そんな時、国家基準規格であるJIS規格より、工業会規格であるJEM規格の方が修正しやすいのは言うまでもない。国家規格でないのも、悪いことばかりではないのだ。
さて、空気清浄機は、空気中を漂う微小粉末、臭気を除去するための家電である。その規格内容は、「たばこ5本分の煙に含まれる粒子成分とガス成分」を「1日分の空気の汚れ」として、それを30分でどれだけ除去できるかを測定する。目標は、1.25mg/m3 → 0.15mg/m3。元の汚れの88%を除去することが目標だ。
空気清浄機で除去すべきモノは、「粉じん系(微粒子)」と「ニオイ系(ガス)」に分けられる。粉じん系は「花粉」「ハウスダスト」「黄砂」「カビ胞子」「PM2.5」がミクロンオーダーで、どちらかというと大きな部類に属する。「細菌」「ウィルス」はナノオーダーとなる。ウィルスの方が圧倒的に小さい。それに対しニオイ系というのは、化学物質を指す。つまり分子サイズ。「アンモニア」「ホルムアルデヒド」「揮発性有機化学物質(VOC)」などだが、「タバコのニオイ」「料理のニオイ」なども含まれる。
タバコの粒子成分は主にタールとニコチンであるが、ナノオーダーに属し、全てを取り去ることは難しい。またガス成分は数千種に及ぶ。このためタバコは長らく、空気清浄機の性能を測るのに使われてきた。が、ナノオーダーなのでタバコの物質を完全に取り去ることはできない。本当にタバコというものはいろいろな意味で扱い難い。
タバコの関連物質がナノオーダーであるため、ミクロンオーダーである「花粉」「ハウスダスト」は当然除去できるものとして考えられている。