2024年7月27日(土)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年6月22日

 それを常々しなくてはならないという意味では、コストが上がりますよ。で、思えば、テレビやラジオのあの高額な媒体料には、信用のお墨付き代が含まれていたと言えるかもしれない。自分でやる場合の面倒な証明作業を肩代わりしてくれていたっていうか。

 高いお金を払わないと載せられない広告だと、そのお金を払える「ちゃんとした」会社しか出稿できないわけだから、そこでいわばふるいにかけられているし、格付けを通過している。それがないインターネットの広告になると、ユーザーがいちいち判断しなくてはならない。

 たとえていうと、4マスは老舗の「舞台」だったんですね。そこに上がる役者や劇団なら、まぁ一定水準以上だろうって、見物客が思えるような、ね。

浜野 駆け出しの「役者」というかCMクリエイターは、テレビって舞台になかなか上がれなかったわけでしょ。

浜野保樹氏(左)と中島氏

わたしの修行時代

中島 そうなんです。僕らこの業界に入った頃、どう腕を磨いたかっていうと、一番最初はビデオコンテといって、広告主向けプレゼンテーションの映像を作るんです。それが若者の最初の入り口でした。

 そこを無事通過したら、今度は師匠について、広告撮影現場の「メーキング映像」みたいなものを作らせてもらう。それから百貨店の店頭用VTRを撮影したりとか…。どれもテレビ画面に流れませんから、「今度流れるCM、あれ、俺が作ったやつだから」って、親に連絡できないわけですよ(笑)。

 テレビの「舞台」に上がるまでには相当な生き残り競争があったわけです。いまだって同じですけどね。やっぱり下手だと、テレビに流れるものを作るところまでいきません。

浜野 それがインターネットになったら…。

中島 インターネットはさっきからの喩えで言うと、誰にでも上がれる舞台です。

 YouTubeあり、Ustreamあり。誰もが映像を流せる舞台でしょう。だったらそこへ上がるため必死で努力する必要なんかありませんよね。もしかするとそれは、ものすごく若くて、優れた才能を引っ張り上げるかもしれない。けど、基礎訓練ができてない人間ばかり作るって面もある。一定以上のCMづくりになると高度な表現が要求されるのは当たり前だけど、そこへ行くまでにクリアしないといけない問題が山のようにあるもので、そこを潜り抜ける術を知らないで作家になっちゃうというのは、ねえ。

 でもね、こう景気が良くないと、冒険させながら若手を鍛える余裕がないことも確かです。クライアント側は、結果を出そうって必死ですから。だからいま、広告の映像作っているのはベテランが多いんですよ。


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