田中氏:「政治主導」とは何か。これに対する簡単な答えはないでしょう。しかし、公務員制度改革とは政治改革でもあります。つまり、公務員の役割を定義することは、その裏返しとして、政治家、首相や大臣の役割を定義することでもあります。自民党政権時代では、利害の調整、あるいは根回しのかなりの部分は役人が担っていました。よく引用されますが、イギリスでは、役人は、原則として、自分の省庁の大臣や副大臣にしか接触できません。何処の国でも、政策や予算は、全て調整が必要ですが、イギリスでは、それは政治家が担っています。そういう意味では、日本の役人は「政治化」しており、だからこそ、「官僚主導」だと批判されてきたわけです。
政治主導というのであれば、やはり、政治家自身が率先して利害調整すべきです。利害調整は、人から嫌われる面倒な仕事です。泥をかぶりながら汗を流して、相手を説得しなければなりません。ときには、脅すことも必要です。民主党政権は、発足時には、閣僚委員会で、政治家が議論し、調整すると言っていましたが、閣僚委員会で、例えば、予算の調整を行ったという話はあまり聞いたことがありません。
たとえば、6月22日には「中期財政戦略」が閣議決定され、2011年度から13年度までの国債費等を除く一般会計歳出(歳出の大枠)を実質的に前年度(約71兆円)以下に抑制する、といった目標が盛り込まれました。これは、予算全体に枠をはめるものですから、全ての大臣にとって最大の関心事のはずです。しかし、閣議決定に至るまでの間に、大臣間で熾烈な議論が闘わされたという話は聞こえてきません。全ての閣僚が財政の厳しさを共有し、問題を議論することが財政再建の出発点ではないでしょうか。少なくとも、小泉政権時代の末期に行われた「歳出・歳入一体改革」のときの議論のほうが厳しい利害調整をしていました。
ただ、政権が交代して1年足らずなので、最初から全てがうまくいかないのは当然と言えば当然です。今まさに政治主導とは何かを模索しているのではないでしょうか。新聞報道などで、大臣が役人の話を聞かないことが指摘されています。役人の言ってることが全て正しいわけではありませんが、まずは話を聞いて判断すべきでしょう。政務3役だけで、もし政策を議論し決定しているとすれば、それは問題があります。イギリスなどでは、省庁がいろいろな分析や検討を行うとともに、外部の専門家に独立的な分析を依頼したり、様々なコンサルテーションを行います。そうした上で、首相を中心とした内閣が最終的な意思決定を行います。それは、政府が失敗しないためです。
他方で、これまでの役人とのぎくしゃくした関係を見直し、今後は役人と仲良くすべきという話になっています。両者が協力するのは当たり前といえば当たり前ですが、大臣が役人に取り込まれる懸念があります。今までがそうだったからです。役人が言っていることが正しいか否かを見極めることができるスタッフを大臣は持たなければなりません。いずれにせよ、政治主導は決して楽なものでありません。これまでの経験を学習し、本来の政治主導を早急に確立してほしいと期待しています。
田中秀明〔たなか・ひであき〕氏
一橋大学経済研究所准教授。1960年東京都生まれ。85年東京工業大学大学院終了後、旧大蔵省(現財務省)入省。91年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス終了。外務省、内閣官房等を経て、2007年より現職。
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