2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2010年7月10日

──天下り撲滅や人件費2割減をするということは、公務員のあり方を変えるということですよね。渡辺喜美さんが行政改革担当大臣をやっていたころ、あれだけ大騒ぎした公務員制度改革は、最近さっぱり聞かなくなりました。民主党のマニフェストにも一切書かれていませんが、公務員制度改革はいったいどうなったのですか?

田中氏:国家公務員法改正案は、先の通常国会に出されていましたが、鳩山首相の辞任劇もあり、廃案になりました。次の国会での成立を目指すことにはなると思いますが。

 改正案の懸念は、幹部職員の適格性審査、幹部候補者名簿の作成、首相・官房長官・任命権者たる大臣による任命協議について、基準や手続きが明確ではないことです。専門性や中立性ではなく、大臣への忠誠心や応答性を重視して、幹部人事を行うのでしょうか。制度が実際に動く前にいたずらな予測は慎むべきですが、極端な話、大臣にうまく取り入った官僚が登用されたり、大臣と密接な関係にある民間人を省庁の幹部に登用される可能性もあります。たとえ、恣意的な人事だったとしても、「抜擢人事」だといえばよいのであれば、なおさらです。大臣に正直に事実を伝えても、それが大臣が求めるものと異なる場合、歯向かったとみなされて降格される危険もあります。公務員は、最終的には、大臣の判断に従わなければなりませんが、イエスマンばかりで、良い政策ができるでしょうか。

 今後、運用面で、恣意的な人事とならないように、透明な手続きが導入されれば、私の懸念は杞憂かもしれません。先日まで公務員制度改革を担当していた仙谷官房長官は、国会答弁等で、公務員の中立性を重視するとおっしゃっていたので、それを裏付ける任免制度ができることを期待しています。が、そうした制度になるかどうか、リスクがあることは指摘しておく必要があります。

──そういった大臣の恣意的な人事を止めるには、どうしたらいいんでしょうか?

田中氏:政治主導のお手本とされているイギリスでは、大臣に、公務員の実質的な人事権はありません。他方、日本の省庁が行っているような省庁独立的な人事もありません。幹部は、ポスト毎に職務や必要な能力を定義し、それにふさわしい人物を、公募などを活用して任命します。日本でいえば、人事院などの独立機関、あるいは中立的な選考委員会が、候補者を評価し、大臣や首相に推薦します。政治家が直接的に公務員人事に介入すれば、公務員が専門性に基づく助言ができなくなると考えているからです。大臣の意向で人事が決まるのであれば、猟官運動が起こります。幹部候補の資格や任命協議の基準について、基本的な考え方や哲学を法律に規定すべきです。イギリスでは、官僚は事実に基づいて助言し、判断は政治家がする、と役割分担がはっきりしています。

 選考委員会が唯一の方法ではありません。新たに設置される内閣人事局が、数百人の幹部の人事情報を正確に把握し、恣意的な人事案件に対して異議を唱えることができるのであればよいですが、それには時間とコストがかかります。

──国家公務員法改正案は、リスクを抱えた法案というわけですね。ただ、この法案が通る前から、民主党政権は、すでに恣意的な人事を行っているように思います。たとえば観光庁長官や中国大使。観光庁長官は、前の仕事で問題になっていますし、中国大使は、江蘇省、吉林省、そして北京市長の顧問です。適格性や中立性がどう判断されたのか明示されてませんよね。


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