2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年7月21日

 曰く、インフレの圧力が高まる中で、金融緩和政策からの転換(出口戦略)が必要となっているが、それを本当に実施してしまえば経済成長の鈍化が避けられないから、どうすれば良いのかは深刻なジレンマとなっているという。

 2番目に挙げられたのは不動産バブルへの対応策である。バブルの膨張を容認すれば金融リスクが増大し民衆の不満も高まるが、それを押え付けたことで不動産市場が萎縮すれば経済が落ちる。どちらを選ぶのか、それが問題なのである。

 3番目は人民元引き上げの問題である。人民元の相場をそのまま固定化すれば国際社会からの圧力に直面するが、人民元の価値を急速に引き上げれば輸出の悪化に拍車をかけ、国内の失業拡大を招くこととなる。それもまた、頭の痛い問題である。

 劉所長はさらに、資源価格の引き上げや労働者賃金の引き上げなどの政策課題にまつわる「ジレンマ」についても分析を行ったが、とにかく今の中国で、重要な経済政策のほとんどすべては、「進むも地獄、退くも地獄」のような苦しい立場に立たされているのである。

 とくに景気対策の出口戦略と不動産バブル対策の場合、対応を一つでも間違えば中国経済の命取りとなりかねないから、中国政府の悩みは実に深いものである。

 こうした中で温首相もついに、「われわれはジレンマに直面している」との「弱気発言」を吐いたわけであろう。しかしそれは本来、一国の指導者としては口にしてはならないセリフである。人々に明確な方向性を示すことこそが指導者の最大の仕事であるが、経済政策の抱える「ジレンマ」に関する温首相の発言はむしろ、「ジレンマ」に陥っている中での政府の無定見さと方向性のなさを露呈したことになった。

国内で広がる「中国経済悲観論」

 指導者がこのような弱気になっていれば、中国経済の行き先はもはや知れたものであろう。実際、この温家宝発言を前後にして、中国経済に対する中長期的な悲観論が国内外の専門家の間で急速に広がっている。

 たとえば、兪正声・上海市共産党委員会書記は6月26日、上海市内で開かれた経済関連のフォーラムで、中国経済は自律的回復力が不足しており、構造的な問題は深刻だと発言した。

 その2日後の6月28日、今度はJPモルガン・アジア・パシフィック社長は、「中国経済の今後の動向は楽観できるものではない」と指摘したうえで、今後2~3年の間に、中国経済は「かつてない大きな壁に直面して大変厳しい時期を迎えるだろう」との深刻な予測を行ったのである。

 中国人民大学経済学院副院長の劉元春教授に至っては、「今年の第4四半期(10月~12月)から、中国経済は予想を超えた大きな下落があるだろう」との警告を発しているところである。

 国家統計局の馬建堂局長もまた、「不透明な要因が増えている」ことを理由に、「中国経済は回復を強固にするうえで重要な局面にある」と指摘した。

最大の試練に直面する中国

 中国の経済成長の持続性に対するさまざまな異論の中で、とくに注目されているのは、北京科学技術大学経済学部の趙暁教授の論説である。


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