2024年12月15日(日)

Wedge REPORT

2017年6月5日

有権者受けもよい「こども保険」

 今年3月下旬、小泉進次郎氏ら自民党若手議員からなる2020年以降の経済財政構想小委員会は、厚生年金や国民年金の保険料率を引き上げて新たな財源を確保することで、幼児教育と保育の実質無償化や待機児童解消施策の充実に充てる「こども保険」を提言した。さらに、現在の社会保障制度は高齢者偏重であるという問題意識もあり、今回の「こども保険」の創設を「全世代型社会保険」の第一歩としたいとのことである。さらに、少子化対策を社会全体で担う必要性も併せて訴えている。

 それを受け自民党の「人生100年時代の制度設計特命委員会」(委員長:茂木敏充政調会長)は5月下旬、「新たな社会保険方式」創設や増税等「こども保険」等に関する財源案をまとめた。政府も自民党の意向を汲み、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の素案が6月2日が公表された。幼児教育・保育の早期無償化が盛り込まれ、「こども保険」の創設が検討される方向だ。

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 このように、「こども保険」に関する詳細な制度設計はいまだに明らかにはなってはいないものの、政府・自民党とも実現に向けて前向きであるため、来年末には任期満了を迎える衆院総選挙や安倍晋三総理長年の悲願である憲法改正を想定する場合、名称はともかく幼児教育と保育の実質無償化や待機児童解消を目的とした「こども保険」は、有権者受けもよいこともあり、その創設は確実視できるだろう。

 そこで、今回は「こども保険」の意義について、課題については次回、稿を改めて指摘することとしたい。すでに報道されている「こども保険」に対して、現在のところ、賛成の立場であれ中立の立場であれ反対の立場であれ、読者の理解を深める一助となれば幸いである。なお、「こども保険」に対する筆者の評価は否定的であるが、本稿では中立的な評価を心掛けている。

子育てにかかる莫大なコスト

 周知の通り、日本では少子化、高齢化が進行する中、人口の減少が続いている。さらに、1995年に1,000万人をはじめて突破した非正規雇用は、傾向的に上昇を続け、2016年には2,016万人に達するなど雇用の劣化が著しい。また、手取りの所得を低い順に並べてちょうど真ん中の順位の人の所得額(中央値)の半分以下の水準しか稼げない人々の割合を指す相対的貧困率を見ると、1997年には14.6%だったものが2012年には16.1%と1.5ポイント上昇しているのに対し、子供のいる現役世帯の貧困率は12.2%から15.1%と2.9ポイントの上昇と、全体の相対的貧困率より大幅に上昇している。近年ではそもそも中央値自体が、1997年の259万円から2012年には221万円と38万円、15%弱減少している。つまり、雇用の劣化とともに現役世帯、なかでも子供を持つ現役世帯の所得は低下し、貧困も拡大しているのだ。

 このように現役世帯の経済的状況は苦境が続く中、子育てコストの負担が重くのしかかっている。AIU保険「AIUの現代子育て経済考2005」によれば、子どもが社会人となるまでの22年間(出産から大学卒業まで)における養育費は約1,640万円と試算されている。さらに、文部科学省「平成26年度子供の学習費調査」、日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果(平成26年度)」によれば、幼稚園から大学を卒業するまですべて公立(大学は国立)だった場合の教育費(塾代、部活費等含む)は約1,016万円と試算されている。したがって、子供一人の養育・教育費用はトータルで約2,700万円かかることになる。

 さらに、内閣府「平成17年度国民生活白書」によれば、女性が大学卒業後正規職に就き60歳まで中断・退職することなく働き続けた場合の生涯賃金と、28歳で第一子出産のために正規職を退職し31歳に第二子出産後翌年32歳でパート・アルバイトとして再就職する場合の生涯賃金の差である機会費用(目に見えない子育てコスト)は約2億2100万円と試算している。

 つまり、出産・育児・教育に関する目に見えるコスト(養育・教育費)と目に見えないコスト(出産・育児に関する機会費用)の合計は約2億5千万円にものぼるのだ。


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