2024年12月22日(日)

シリーズ「待機児童はなぜ減らないのか?」

2017年5月19日

「どこでも良いから預けたいわけではない」

 小原良子さん(仮名、40歳)は、そう痛感している。それというのも、もう小学生になっている第1子が通った保育所があまりに子どもにとって劣悪な環境で、何度も仕事を辞めるか悩みながら登園させていたからだ。

 自営業の良子さんは自治体の保育課から労働時間を認めてもらえず待機児童になってしまった。やむなく、0歳のうちに認可外保育所に子どもを預けたが、園庭もなければ異年齢保育で、ハイハイするすぐそばで2~3歳の子がふざけ合っても保育士に注意する余裕もない状態。たまに注意をしたかと思えば、ヒステリックに怒鳴って威圧しているだけで、子どもたちが一瞬、恐怖で言うことを聞いたふりするだけのように見えていた。

 しばらくすると、東京都の認証保育所に空きが出て転園したが、保育士がすぐに辞めて入れ替わっていく。オムツ交換や排せつ介助に当たる保育士が排便の時にゴム手袋もせずにいるため、感染症があっという間に広がることが気になった。保育士は身だしなみも言葉遣いも社会人としてのマナーも不十分。保護者の前ではにっこりしても、ふとした隙に“ヤンキー”さながらで同僚保育士に「おっせーんだよ、てめー」と舌打ちする姿を目撃した時には、「うちの子も、あんな風に扱われているのではないか」と疑った。

 子どもは保育所を過剰に嫌がり、何か月通っても預ける時に号泣する。保育士は、その場では「大丈夫ですから」と目だけ笑ってはいるが口元がひきつっている。「お母さんがいると、いつまでも甘えて泣き止まないので。お母さんの姿が見えなくなれば、ぴたっと泣き止んで遊んでいますから」と退室を促す。しかし、忘れ物をしたことを思い出して保育室に戻ると、大丈夫と言った保育士は号泣する子どもを放置して、さっさと朝の会を始めようとしていた。お迎えに行っても、保育士は「今日も元気でした」だけ言うと、そのあとは目も合わせず、あたかも「さっさと帰ってよ」と言わんばかりの態度をとる。
 
 「こんなところに子どもを預けてまでして、私は働いていていいのだろうか」

 良子さんは真剣に悩み始め、仕事をしていても我が子が辛い目にあっていないかと気が気でない。安心して預けられないことに大きなストレスを感じた。そして、「もし希望する認可保育所に入ることができなければ、いったん仕事を辞めよう」と決意した。何度も近隣の保育所に足を運んで見学し、納得いくまで保育所の様子を見て、自治体に提出する申請書類には2か所だけ希望園を書いた。

 運良く空きが出て、希望する保育所に移ることができた。転園先の保育所は、何十年も続く私立の認可保育所で、親子3代続いて入園するケースや、卒園した子どもが保育士になって勤務している家庭的で温かみのある保育所だった。すると、それまでが嘘のように子どもは転園しても、たった数日で新しい保育所に慣れて笑顔でバイバイできるようになり、良子さんは「これで、働き続けることに後ろめたさを感じなくてすんだ」と胸をなでおろした経験がある。だからこそ、そのトラウマから第2子が生まれて入園申込みでは、最初から本当に大丈夫そうだと思えた3か所しか希望園を書けなかった。うっかり欄を埋め尽くして不安を感じる保育所に決まったら後戻りはできない。その結果、第2子も待機児童になって育休延長でしのいでいる。

 こうしたケースのように、子どもを預ける先が信用できるか否かという問題が原因で、「特定の保育所しか希望していない」となっていることもある。しかし、行政は、通える範囲の保育所の利用を申請せずに、特定の保育所だけ希望して申請すると“わがまま”“預けて働くことへの緊急性がない”と見られて、待機児童としてカウントされなくなる。さらに、役所での“心象が悪くなる”として、利用調整指数で同じ点数が並んだ時に不利になるとも言われている。


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