2024年12月11日(水)

サムライ弁護士の一刀両断

2017年7月21日

 広告代理店の株式会社電通が、自社の社員に違法な長時間労働をさせていた事件で、東京区検察庁は7月5日、同社を労働基準法違反の罪で略式起訴しました。これに対して裁判所は、7月12日、略式手続によることを「相当でない」として、正式裁判により審理することを決めました。異例とも報道される今回の裁判所の判断には、どのような意味があるのでしょうか。そもそも、「略式起訴」とは何でしょう。

電通本社ビル(christinayan_by_Takahiro_Yanai/iStock)

刑事事件に発展した労基法違反問題

 まず簡単に振り返ると、今回の事件は、平成27年12月、当時入社1年目だった広告代理店社員が、最大月130時間にも及ぶ長時間残業の末に亡くなったことをきっかけに、社内の長時間労働が明るみに出ることになったものです。

 その後、同社は以前にも是正勧告を受けていたにもかかわらず、社内で違法な長時間労働が常態化しているという疑いが強まり、強制捜査を受けることになりました。この時点で、同社の労働基準法違反の問題は刑事事件に発展したといえます。

 最終的に東京区検察庁の検察官は、社員に労使協定を超えた違法な長時間労働をさせたとして、同社を労働基準法違反の罪により略式手続により起訴をしました。これに対して裁判所は、検察官による起訴自体は受理したうえで、「略式手続による」とした部分を認めず、通常の裁判手続で審理すると判断したものです。

「略式起訴」とは? 通常の起訴との違いは?

 まず、略式起訴とはどういう手続でしょうか。通常の手続とどう違うのでしょうか。

 通常の刑事裁判の場合、まずは検察庁の検察官が裁判所に起訴状を提出するところから始まります。起訴状を受け取った裁判所は、公判期日を決めて被告人を呼出し、以後、公開の法廷で審理が進むことになります。

 この場合、検察官の起訴状読み上げから始まり、黙秘権の告知、被告人による認否、証拠の提出、証人尋問や被告人本人に対する質問など、いくつもの手続を経て、検察官と弁護人や被告人の意見を聴いた上で、最終的に裁判官が判決を言い渡すことになります。

 このように刑事裁判では慎重に手続が取り進められることになるのですが、軽微な事件で、なおかつ、被疑者・被告人が罪を認めている場合であっても、例外なく慎重な手続を取らなければならないとなると、被疑者・被告人本人だけでなく、検察庁や裁判所にも負担が大きいといえます。

 そこで我が国の刑事訴訟法では、一定の軽微な事件の場合であって、当事者に異議がない場合、正式な裁判を経ることなく罰則を課すことを認めています。

 具体的には、①簡易裁判所に管轄がある事件であり、②100万円以下の罰金や科料の対象となる事件であり、なおかつ、③被疑者が略式手続によることに異議がないことを書面で明らかにしている場合には、検察官は起訴状を提出するときに、裁判所に略式命令を求めることが可能です(一般的にはこれを「略式起訴」と呼びます)。

 略式起訴がされた場合、裁判所は書面審査だけで被告人に罰金等を命じることになりますので、公開の法廷が開かれることはありません。したがって、証人尋問や被告人質問、あるいは意見陳述といった手続も行われません。


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