2024年4月21日(日)

特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年8月1日

直線の時間と円環の時間 
二つの思想があるから発展してきた

出口:宗教は、一般にセム的一神教、インド系の宗教、東アジア系の宗教の3つに分けられますが、セム的一神教だけが時間が直線で、後の二つは円環に近いと思います。

佐藤:ただ、セム的一神教が直線だけなら、たぶんここまで発展しなかったと思うんです。やっぱりギリシアと触れることによって、円環性が入っている。だからイスラムもね。率直に言って、アラブが今これだけの力を持っているのは、たまたま石油があったからです。本当に怖いのは、イスラム世界ではイランです。

出口:ペルシャですよね。

佐藤:イランには、ペルシャ帝国の歴史が入っているので、円環もゾロアスターも持っている。実は、イラン研究って、すごく重要なんですよ。

出口:僕もまったく同感ですね。

佐藤:日本ではそういう意識を持っている人は少ないですよね。

出口:でも考えてみたら、古代の世界帝国を作ってきたのは全部ペルシャ人なので、中東のカギはイランが握っていると思います。

佐藤:その通りです。イランというのは、ローマ帝国以前の世界帝国だった。ローマ教皇と自分たちは対等だと、今でも思っていますからね。

出口:サーサーン朝の首都であったクテシフォンと、コンスタンティノープルの人口はほとんど一緒です。中東を安定させようと思ったら、やっぱりイランがカギですね。

佐藤:今のイランが極端な原理主義政権なので、これが続いていったら大変です。

出口:不幸ですよね。

佐藤:イランが本当の意味で民主化して、トルコももう少しきちんとした開発独裁国家になってくれれば、「イスラム国(IS)」なんて恐るるに足りないんですけれど。

出口:すぐに消えますよね。

佐藤:そう思います。ところがイランが怖いのは、核開発を本気でやっていて、それは民主派もリベラル派も支持していることです。「大国であるイランは、核兵器を持つべきだ」と。

出口:でも、イランには時間は円環するという認識があります。『王書』などを読んでいると円環の比喩がたくさん出てきます。円環を回すことによって悲劇が喜劇になるとか、栄光から悲惨に落ちるとか。

佐藤:ゾロアスター教にも、その要素がすごくありますね。

出口:あります。西洋の哲学はホワイトヘッド(アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド/連合王国の数学者)が言ったように、すべてプラトン(古代ギリシア哲学者)の解釈ですよね。

佐藤:ええ、そうです。

出口:でも、プラトンの考え方には、ピタゴラス(古代ギリシア数学者・哲学者)の影響が大きい。

佐藤:ピタゴラスは、神秘主義教団ですからね。

出口:そこには輪廻とか円環の考え方があるんですよね。面白いです。

ロシアがISを攻撃できて、アメリカができない理由とは

出口:トランプは「早くISをつぶしたほうがいい」とはっきり言っていますね。

佐藤:はっきり言っていますが、あまり自分の手でやろうとはしていないですね。

出口:アサド政権にトマホークを撃ち込んだことは、佐藤さんはどう見ておられますか?

佐藤:これは比較的簡単です。トマホークを撃ち込む2時間前、アメリカはロシアに通報しています。ロシア人もイラン人の司令部も、全部逃げているんですね。ロシア側は、飛行機に穴があいているだけで滑走路をつぶしていない。管制塔もつぶしていません。

出口:なぜでしょう?

佐藤:アメリカの内政向けですよ。レッドライン外交というのがアメリカの伝統的外交。ここが赤い線で、この線を越えたらアメリカはやるぞと言ったら必ずやる。有言実行の国だったんですが、オバマはシリア問題では結局一線を超えてもやらなかった。それがロシアにつけ込まれる原因になったんです。

出口:トランプは「自分はオバマとは違う」と示したかったんですね。

佐藤:アメリカは、3年間ISと戦っているんです。オバマが宣戦布告をして。地上軍を送らないでやっているのですが、全然効果が上がらないわけです。ところがロシアはわずか2カ月間で効果を上げている。

出口:なぜでしょう。

佐藤:アメリカは絨毯爆撃ができないからです。ISの特徴はハイブリッド。アルカイダとか日本赤軍とかオウム真理教とかドイツ赤軍とか赤い旅団とか、こういうのはすべてテロの専門家集団ですよね。それに対してISは、ハイブリッド。すなわち市民社会を持っているんです。工場も、農場も、役所も、学校も、病院も持っている。それがモザイク状に入り組んでいるのでどこを攻撃したらいいか、わからないんです。

出口:ああ、なるほど。

佐藤:本当は絨毯爆撃のほうがいいんですが、それをやったらISが西側のジャーナリストを入れる。そして、子どもが殺されているところ、お母さんが子どもを抱きかかえたまま死んでいるところ、そういう動画や写真を渡して、「これが事実だよ」と伝えます。

出口:そうなると、政治的にもたないですね。

佐藤:そうです! ロシアはまずメディアがそういうことを報じないし、仮にインターネットで報じられても、ロシア国民は「そんなもんだろう」という国民性なので心配ない。

出口:だからロシアは、乱暴なことが平気でできるんですね。

佐藤:トランプからすれば、石油がろくに出ないシリアに、なぜ投資しなければいけないんだ、と。ロシアが多少野蛮なやり方で整理してくれるなら、それで構わない。

出口:そう割り切るわけですね。

佐藤:ええ。その代わりイラクはダメ、石油が出るから。だから、むしろ不良債権処理として見たほうがいいかもしれません。シリアとイラク、両方とも不良債権なんだけれど、コスト感覚としてシリアはコスパが合わない。そこの地上げ屋に入っている半分企業舎弟みたいなロシアがいるから、そこにやらせればいいじゃないか、という感覚でしょう。


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