2024年12月3日(火)

特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年8月1日

ライフネット生命会長・出口治明さんが「歴史」や「教養」をテーマに、さまざまな有識者をゲストに迎える対談企画「出口さんの学び舎」。技術革新やグローバル化により変化の激しい現代で、ぶれない軸を持って生きていくために必要なものとは何か、対話を通じ伝えていく――。

佐藤優さん、出口治明さん

*前編はこちら

紅白歌合戦は、国民的魔術のイニシエーションです

出口:日本人はよく、宗教に対する認識が低いとか、他の国とは違うと言われていますね。

佐藤:宗教がないというのであれば、文化庁の統計を見たほうがいい。

出口:1億8000万人。

佐藤:そうです、いるんですよ。昔はもっと多かった。

出口:2億数千万人だったはずです。

佐藤:ということは、無宗教な人も多いから、熱心なおばあちゃんは一人で10個くらい信じているんです。

出口:そうですよね。

佐藤:日本人が無宗教とか言ってはダメですよね。あと、宗教法人法で税金をとらないのが大きい。仮に税金取るとなったら、どの団体も過少申告するでしょう。

出口:ええ。多めに申告するほうが、景気がいいですもんね。

佐藤:だから人口の1.5倍くらいになってしまうんです。

出口:日本人とアメリカ人の宗教に対する意識は、僕は本質的な違いはあまりないように思うんですけれど、どうでしょうか。

佐藤:最初に「神道は宗教にあらず」と言いましたが、見えないところに神道的なメンタリティがある。どこで現れているかというと、たとえば「紅白歌合戦」です。あの程度のレベルの歌番組が40~50%の視聴率が取れるというのは、異常ですよね。しかしそれは、宗教行事だからです。

出口:なるほど。

佐藤:あの番組でカオスを創り出して、23時45分になると「滋賀の三井寺です」と、除夜の鐘が鳴る。騒がしいところから静寂へ。カオスからコスモスを創り出す、創造儀式ですね。

出口:一種の国民的魔術の通過儀礼、イニシエーションですね。

佐藤:その通りです。その結果どうなるかというと、「新しい年が来た」と感じるんですよ。ヨーロッパやロシアやアメリカに住んでいると、新年が来て、新しくやり直すという気持ちになるでしょうか。

出口:あまりならないですね。2日からはもう仕事が始まりますし。

佐藤:年が一つ積み重なるだけで、時間が直線を描いていきます。でも、われわれはあれで円環し、リセットされるんです。そういう時間の流れ方というのが、やっぱり日本の根っこのところにある。

出口:なるほど。今言われた時間に対する考え方は、僕も二つあると思っています。太陽など自然界を観察したら、円環する時間のほうが理解しやすいですよね。

佐藤:その通りです。元々ギリシアも時間が円環しています。農耕文明は基本的に、時間が円環していますから。

出口:もう一つはザラスシュトラ(ゾロアスター教開祖)の考え方で、時間を直線で考えます。直線の考え方というのは、人間の一生がそうですね。生まれてから死ぬまで。はじめと終わり。天地創造と最後の審判。このように時間の考えは二つあると思うんです。

佐藤:その感覚を持つことは、役人でもビジネスでも、成功するために重要だと思います。特に直線的な時間概念は持たないといけない。日本では、直線的な時間概念で「終わり」というのは、悪いイメージですが、英語でendは、「目的」という意味があります。これはギリシア語のテロスという言葉からきていて、目的であり、終わりであり、完成である。

出口:だから、何かをやり遂げないといけないんですね。

佐藤:そうです。イコールやり遂げる。だから、直線的な時間概念を持った人たちは、到達点から後ろを振り向いて、今を考えます。だから、組み立てられる。

出口:endがある。目的があるからですね。

佐藤:受験勉強がうまい奴っていうのは、endをきちんと作って、自分が合格したときの状況から組み立てるんですよ。


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