2024年11月22日(金)

特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年8月1日

北朝鮮についてアメリカが考える3つのシナリオ

出口:では北朝鮮についてトランプはどう対応しようとしているのでしょう。

佐藤:日経新聞で興味深い報道がありました。「アメリカが、中国を通して北朝鮮に4つのNOを伝えた」と。「核兵器開発と弾道ミサイル開発をしないのなら、金正恩政権を認める」「武力による崩壊はさせない」「38度線を超えて北進をしない」「南北の統一を急がない」という4つです。

出口:ものすごくいい条件ですね。

佐藤:ええ。しかもそれが打ち出しの段階ですよ。ということは、それよりも譲歩するということです。おそらくパキスタンと同じ状態で構わないと思っているのでしょう。核兵器やミサイルは持っているけれど、中距離ミサイルまでだ。大陸間弾道ミサイルは持たない。それなら構わないよ、というシグナルですね。

出口:インドに届くのはいいけれど、それ以上はアカン、ということですね。

佐藤:そうです。つまり、日本に届くのは構わないけど、アメリカに届かなければいい、ってことです。

出口:ダメじゃないですか。

佐藤:そういう交渉を平気でやるから怖いんです。日本にとって最悪のシナリオは何か。アメリカは2つのシナリオを考えているんですね。今言った、パキスタン状態にするのは、3つ目のシナリオです。1つ目のシナリオは、核施設と弾道ミサイル施設を破壊する。ただしこれは地下で作っていますから、バンカーバスターじゃないと飛ばせないですね。そうすると、ピンポイントで特定しないといけない。人工衛星では特定できないんです、地下だから。スパイを送り込んで情報をとれるかというと、アメリカにはそこまでの力はないと思います。

出口:あの国では、スパイは難しそうですね。

佐藤:ええ、大変だと思います。それで、2つ目のシナリオは、金正恩を殺す。これはそんなに難しくないんですよ。住んでいるあたりにいる人を掴み、尋問して、吐かせることはできます。移動手段を探し当てるのもそれほど難しくはない。そして金正恩を消すと、その後に宝探しが起きます。北朝鮮の核と弾道ミサイルが欲しい。アメリカ、中国、韓国が参加メンバーです。アメリカ、中国の手に落ちるならあまり心配はありません。核兵器も弾道ミサイルも破壊して終わりですよ。でも韓国の手に落ちた場合はどうなるか。

出口:そのシナリオもなかなか大変ですよね。

佐藤:韓国は遅れているんです。意外と知られていませんが、韓国のミサイル技術、ロケット技術はいまだに大気圏外にも出すことができません。

出口:北朝鮮のほうが進んでいますね。

佐藤:かなり進んでいる。学力でいうと、韓国が公立中学3年生くらいだとすると、北朝鮮のミサイルは東工大の大学院くらいです。

出口:だから、韓国は弾道ミサイルと、核兵器がほしいんですね。

佐藤:核に関して言えば、日米原子力協定で、日本は六ヶ所村でプルトニウムの抽出、ウランの濃縮をしていますね。ところが韓国は認められていません。韓国の燃料はアメリカの原発からもらうだけなんです。どうしてかというと、朴正煕大統領の時代に密かに原爆を作ろうとして、アメリカがそれをやめさせたから。だから、日本レベルでのプルトニウムの抽出とウランの濃縮を認めさせてくれといっても、アメリカは認めません。今後も認めないでしょう。

出口:中国も認めないですよね。

佐藤:でも、韓国はそれがほしいんです。

出口:方法論としては北朝鮮から取ってくるしかないわけですね。

北朝鮮の核開発の最大の問題は、現地でウランが採れること

佐藤:日本の原発政策は、中曽根康弘さんが大きな役割を果たしたと思うのですが、原発とロケットがあることによって持てる事実上の能力は、核と弾道ミサイルです。特に、日本の場合重要なのは、プルトニウムの抽出はフランスの技術、ウラン濃縮なんですね。これは完全に自前です。第二次大戦中から仁科芳雄博士が始めたものがそのまま六ヶ所村に来ているんです。

出口:自分で技術を持っている、と。

佐藤:面白いので調べたんですけどね。日本のウラン濃縮は、現時点で特許をどれくらい持っていると思いますか?

出口:何百とか?

佐藤:と思うでしょ。論文もたくさん発表しているのではないかと思うでしょ。いずれもゼロなんですよ。

出口:えっ、なんでですか?

佐藤:確たる技術を発表したら、核拡散につながるから。特許や論文をベースにして、諸外国が開発する危険性があるから、日本原燃の学者は、研究発表は一切しません。学会でもやらない。

出口:なるほど。だから出ないわけですね。

佐藤:確か規定では、会社の上層部から特別の許可を得ないと外国にも出られないはずです。外国に出ると拉致されて、そのまま原発開発をやらされる危険性があるので。

出口:ヒッタイトが鋼に関わるコアな技術者を隔離していたような状況なんですね。

佐藤:よく似ています。日本原燃というのは、それくらい力を持っている会社なんです。私は絶対につぶしてはいけないと思っているんですよ。原発の比率を3割くらいにしておくというのは、どういうことか。日本はウランが取れないじゃないですか。日本が原発を作るって言ったら、ウランは全部引っ張ってくる。原発が停止すると、3割のエネルギーがなければこの国の産業は崩壊しますよね。そして、核開発をしない人質、プラス日本としては、核開発の能力は持っていたいということなんです。

出口:うまい組み合わせですね。

佐藤:しかも強いて言うなら、六ヶ所村にしたというのは、三沢を人質にしていますよね。六ヶ所村を攻撃することがあれば、高濃度の放射性物質が流出したら三沢基地がやられてしまう。だから、三沢は日本のためじゃなくて米軍のために六ヶ所村を守ります。こういう計算だと思うんです。ところが韓国の場合、仮に北朝鮮を併合して核開発をすると、「NPT条約違反だから燃料を全部出せ」と言われても、困らないんです。北朝鮮ではウランがいくらでも採れますから。

出口:なるほど。

佐藤:北朝鮮の核開発の最大の問題は、あそこでウランが掘れてしまうことなんです。ウランさえ採れなければ、封じ込めは簡単にできるんですが。


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