2024年4月19日(金)

特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年8月1日

イスラムのテロリズムというのは、思いついたら即行動なんです

佐藤:4月にイスラエルから4人のお客さんが来たんですよ。そのうちの3人はあまり表に出せない人です。一人は元モサドの幹部だという人、一人は軍産複合体の社長、もう一人は軍の情報機関の幹部で今は武器の商人。

 一人だけ名前を出せるのは、テロ対策センターの所長だった、ボアズ・ガノール教授です。この人は、2001年に9.11のテロを予測したことで有名です。民間航空機を使った形のテロがあり得ると言いました。テロ学の専門家なので、みんながその人の意見を聞くんです。会って話をしたのですが、今、テロには3つの形がある、と言っていました。

 1番目がローンウルフ、一匹狼です。これは自分の心の中でテロをやろうと決めて、誰にも言わないタイプ。2番目はローカルネットワークと彼は言っているのですが、夫婦や兄弟で行うテロ。このテロの特徴は、なたやナイフを使う。あるいは自動車のジグザク運転。これは夫婦や兄弟でやるので、情報が洩れません。

出口:防げないですね。

佐藤:命を賭けてやるから、最後は当日か前日に決意表明を書いて、インターネット空間に遺書を残す。できるだけ多くの人に見てほしいわけですからね。そこには、パターンとなったフレーズなどがあって、それに特化した検索エンジンシステムを、今、イスラエルは作っているそうです。だいたい20分くらいで見つけられる、と。

出口:へぇ。そんな短時間で見つけられるわけですね。

佐藤:そうです。そこに警官が「お話聞かせてください」と訪ねていく。そしてあぶないと思ったら予防拘禁するわけです。実は、日本国政府を暴力によって転覆させようと考えている人たちは、いくらでもいる。革命派とか、中核派とか。ところが、具体的な活動に着手しない限り、これは網にかかりません。

 ところが、イスラムのテロリズムというのは、思いついたら即行動なんです。その間の距離が短いから、近代法的な枠組みの中では脅威を除去できない。だから新しい防止策が必要になるのです。

出口:ローンウルフと、ローカルネットワーク。3番目はなんですか?

佐藤:組織テロ、ISなどです。これの特徴は、爆弾を使うこと。自爆テロであるか、時限爆弾であるかを問わず、爆弾をつかうものには組織背景があると考えていい。

出口:そうですね。

佐藤:自爆テロリストの養成について聞いたのですが、サンクトペテルブルグで自爆テロがありましたね。あれは1カ月前まではおとなしい青年だったというから、「1カ月で自爆テロリストにできるのか」と言ったら「佐藤、おまえ、何眠たいことを言っているんだ、簡単だよ」と言われた。「どうするの?」と聞いたら「自殺願望のある奴を見つけるんだ」と。

出口:なるほど。

佐藤:「理由は何でもいい。借金でも、失恋でも、とにかく自殺するってことを決めている奴を見つける」と。そしてこう説得する。「自殺するのは人生の敗者だよな。みじめだ。虫けらのような一生でみんなから忘れられる。でも、自殺ではなく、お前が命を投げ出す決意が重要なんだ。イスラムの聖戦に加わらせてやろう。そこで戦えば、天国に行く道の扉が開く」。

出口:聖戦の戦士になれ、と。

佐藤:こういう説明をすれば、死ぬことをもう決めているので説得は難しくありません。

出口:どうして防げばいいんですか?

佐藤:これも防ぎようだと言うんです。イスラムのメンターとくっついている精神科医が必ずいる。その動向を見て、適切に対処するしかありません。

出口:世界の最前線はそこまで行っているんですね。

治安維持法の復活というのは、その通りなんです

佐藤:話題だったテロ防止法、共謀罪に関して、私は政府と野党両方に知り合いがいます。政府も何をすればテロを防止することができるかよくわかっていないし、野党はこの問題を政争の具にしている。人間の内心をチェックする、予防拘禁のような手段を用いなければテロは防止できない。他方、そのような「武器」を政府に持たせれば必ず乱用して政敵つぶしに使う。

出口:つまり、自分の政敵つぶしに使われることと、社会が進化している中での怖さに備える両面があることを知って、両方を比較衡量していく必要があると。

佐藤:おっしゃる通りなんです。そのために、僕はこの法律に賛成なんですよ。必要だと思うんです。必要だけれど危険性がある。すなわち、この薬には大きな副作用がある。副作用でどういう危険性があるかということを社会が知っていれば、きちんと監視するわけです。

出口:乱用のリスクを少なくするには、三権分立を厳格に運用するとか、インテリジェンスの機関を牽制させるとか。

佐藤:必要ですね。それから、事後的に権力が乱用した場合のものすごく厳しい罰則をつけておくとか。

出口:単に政敵つぶしに使えないよう、極力知恵を出していくことが必要ですね。

佐藤:その通りです。でもそのためには、この薬がどういう薬で、どういう効用があり、どういう副作用があるかを国民に提示すること。

出口:みんなで中身を知らなきゃいけないですよね。

佐藤:もっと極端なことを言いますよ。治安維持法の復活というのは、その通りなんです。しかし、治安維持法は本当に悪かったのかという話まで持っていかないといけない。改正前の治安維持法は、コミンテルン対策の法律でした。1919年にできたコミンテルンの支部として、国際共産党日本支部を作り、それによって内乱を準備した。具体的にテロ活動などが行われました。

 しかし、コミンテルンが一国社会主義に転換した1930年代。もはやソ連国家の国益しか実現しなくなった。国際共産主義の実現はもうない。そこのところで冷静な判断をすればよかったんです。

出口:そこで、治安維持法をやめればよかったんですね。

佐藤:ところが、これはこれで便利だ、と。

出口:何にでも使えてオールマイティだと。

佐藤:コミンテルンとつながっている部分だけだったのに、社会民主主義なるマルクス主義、労働運動、それでも足りずに宗教団体とどんどん広がって収拾がつかなくなってしまった。

出口:便利だから、何にでも使えると乱用してしまったところに悲劇があったんですね。

佐藤:そういうことなんです。だから、治安維持法についても、「治安維持法だからダメなんだ」といって思考停止させるのではなく、なぜ必要になって、何をしようとしたかを考えなければ。

出口:歴史をきちんと勉強しないまま、騒いでもしょうがないということですね。今日はものすごく勉強になりました。お忙しい中、ありがとうございました。


▼特別対談企画「出口さんの学び舎」
・木村草太(憲法学者)
・森本あんり(神学者、アメリカ学者)
・池谷裕二(脳科学者)

・中室牧子(教育経済学者)

  
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