2024年11月22日(金)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年9月20日

●そもそも言葉の研究を始めたのは自己意識のメカニズムを知りたかったからとか。

飼育しているデグーの様子を窺う

――子どもの頃、死ぬのが嫌だった。自分がいずれ消滅するのが嫌だった。母に「僕も死んじゃうの?」なんて聞いて、叱られたこともありました。

 意識をもった存在に有限の時間しかないのは不条理だと思ってたんですね。でも、意識の本質を知ることでその不条理を超越できるかもしれないと思った。それが研究の強い動機です。死ぬことが嫌なのは、言葉や自己意識の問題で、それがわかれば嫌でなくなると思った。

 私の実家は栃木県の足利市で水道屋を営んでいました。自営業ですから、物心がついたときから、親父は長男の私に家業を継げと言い続けていましたね。自分としては動物が大好きだから、獣医とか、動物にまつわる仕事をやりたかったんですが、従順な子でしたから、自分は長男だから当然水道屋をやるものなんだ、と思って。水道屋を経営しながら、余暇に動物の本を読んだりできればいいや、と思いながら育ちました。

うちの実家は水道屋で、私は家業を継げと言われていました。動物に関する仕事を夢見ていたけど、長男だから継がなきゃならない。しかも大学は経済学部に行けと言われていました。でも、予備校時代の祖母の死を機に、「好きなことをやれ」と父が言ってくれたんです。そこで断然好きなことをやろうと思った。動物行動学の勉強できるかもしれない、と思って慶應義塾大学の渡辺茂先生の門を叩いたんです。私の学者人生はそこから始まりました。

 最初に将来について他の可能性を検討できないという制約があったので、それが外れたときの夢の広がりは大きかった。「何をしてもいい」という家にいたら、いまの私はなかったでしょう。

⇒後篇では、いま取り組んでいる最新研究「感情の文法」について伺います
(9月21日公開予定)

岡ノ谷一夫〔おかのや・かずお〕
理化学研究所脳科学総合研究センター生物言語研究チームリーダー、科学技術振興機構ERATO岡ノ谷情動情報プロジェクト研究総括、東京大学大学院総合文化研究科教授。著書に『小鳥の歌からヒトの言葉へ』『ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係』(岩波科学ライブラリー)、『ことばの宇宙への旅立ち 3』(大津由紀雄編、共著、ひつじ書房)、『言葉はなぜ生まれたのか』(文藝春秋)など。
ラボウェブサイト:http://okanoyalab.brain.riken.jp/pub/jp/

◆WEDGE2010 年10月号より

 

 

 

 
 

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