零細事業者のニーズをくみ取る
網商貸の利用者はネットショップ、飲食店、野菜市場の店主、個人事業主のトラック運転手などさまざまだ。ただ、網商銀行成立前、2010年から阿里小額貸款、2014年から螞蟻微貸という名称で、主にアリババ系列のネットショップ経営者向けに無担保小口融資が行われてきただけに、今でもEC関連の借り手が多いという。網商銀行成立後はネットショップ経営者以外にも融資対象を拡大した。肉まんを売る屋台のような超零細事業者でも融資を受けられる点が売りだ。2015年以来、350万社に融資してきた。前身も含めると600万社に達する。
「客がアリペイを利用して肉まんを買えば、我々は顧客数を把握できます。商品単価が安くて売り上げが少なくともかまいません。固定客がいれば融資は可能です。また屋台の経営者は電気代や水道代といった公共料金をアリペイで支払えば、それもまた融資判断の材料になります。他にもシェアサイクルの利用時に違反行為はなかったかなどのさまざまなビッグデータが活用されています」
平均の融資額は1件あたり1万7000元(約28万6000円)。まさにマイクロクレジット(銀行から融資を受けられない、零細事業者向けの小額融資)である。劉氏は次のように説明する。
「顧客の多くはネットショップや商店、レストラン、運転手など。最近ではネットショップをやっていない、オフライン事業のみの顧客も増えています。野菜市場のおばさんも融資を受けてますよ(笑)。小規模企業や個人事業者の資金需要は一般企業とは異なります。一般企業は運転資金をプールしていますが、私たちの顧客は必要があって初めて融資を申請するのです。しかも資金を必要とする期間も短い。返済までの平均期間は7日間です。例えばネットショップですと、商品が売れたら次の在庫を仕入れる必要がありますよね。ただし中国ではエスクローサービス(*)が一般的なので、顧客が品物が届いたと確認するまでは売り上げを受け取ることができません。融資を受ければ入金を待つことなく在庫を仕入れられます。資本回転率を高めることができるのです。
トラック運転手ですと、目的地までのガソリン代や高速代の融資を受け、到着したら報酬をもらって返済するといった具合です。野菜市場のおばちゃんもそうですよ。朝お金を借りて仕入れ、夜になれば売上金で返済するわけです。こういう事情ですから頻繁に融資を受けては返す方が大半です。顧客の60%は年50回以上の融資を受けています。中には5年間で3794回、平均で1日に2回融資を受けている方もいます」
*エスクローサービス:ネットショップの安全性を担保する仕組み。ネットショップでの取引の際、買い手が支払った代金はいったん第三者機関に預けられる。商品が正しく到着し取引が成立すると、代金は売り手に振り込まれる。第三者機関を介在させることで売り手も買い手も安心して買い物ができる仕組み。
零細業者は自転車操業だ。現金に余裕がある者などほとんどいない。網商銀行を使えば金策に駆けずり回る苦労から解放されて、スマホだけで資金の手当てができる。借り入れ返済のサイクルを超高速化することによって資金の回転率を高め、自転車操業の効率を極限まで高められるのだ。
「中国では毎年11月11日の双十一、通称「独身の日」が年間で最大の売り上げを記録するセールです。多くのショップは通常時の10倍という在庫を確保する必要があります。この資金需要の解決にも網商貸は活躍しています。2016年の双十一セール前には133万もの小規模企業、個人が融資を受けました」
また「余利宝」という金融商品も扱っている。MMF(マネー・マネジメント・ファンド)の一種で1元からでも購入が可能、必要な場合にはすぐ解約ができる。一時的に手持ち資金に余剰が出た場合には死蔵させることなく、お手軽に運用が可能になるというわけだ(*)。
*なお、アントフィナンシャルは個人向けの金融商品として、「余額宝」という類似のサービスを展開している。