農村に金融を、伝統金融に変革を
農民向けの商品が「旺農貸」だ。基本的な仕組みは網商貸と似ているが、インターネットの活用が遅れている農村では十分なビッグデータの収集が難しいため、農産品企業やアントフィナンシャルと提携した信頼できる農村パートナーによる推薦という信用評価制度も導入している。
興味深いのは融資された資金を博打などに流用することを防止する施策だ。一部の融資はアリババグループ系列のECで飼料や種子、小豚、あるいは設備を購入するなど用途が限定される。収穫物や育てた豚は農産品企業によって回収され、ECを通じて消費者に販売される。企業は高品質の農作物を得られる。消費者は由来がはっきりした安心できる食品を入手できる。農民は収入が得られる。そして網商銀行は不良債権率を低下させられるという関係者すべてに利益がある仕組み作りに取り組んでいる。
網商貸にせよ、旺農貸にせよ、モバイル決済から生み出されたビッグデータを活用することによって、これまで信用評価がなく金融サービスを受けられなかった人々に融資を提供することを目指している。伝統的な金融の穴を埋めているわけだが、それだけではなく、網商銀行は伝統的金融を変えつつあるという。
そもそも銀行が小企業に融資しなかったのは何も嫌がらせをしているわけではない。取引実績のない相手を評価するコストが高すぎる、あるいは評価する材料を持たないのが原因であった。低コストで新たな融資先を見つけることができるのならば、伝統的金融機関も乗り気になる。
そこで網商銀行は伝統的金融機関、銀行との提携を強化しているという。これまで取引実績のない中小企業が銀行に融資を求めてきた場合、網商銀行が信用評価を提供して、銀行の融資判断をサポートする。網商銀行と伝統的銀行が共同融資を行うケースも多いという。これによって最初の取引実績ができれば、その後のさらなる融資へと発展する可能性が広がる。伝統的金融機関に対抗するのではなく、彼らを変える役割を果たしつつあるわけだ。