あなたはどの程度、「信頼」されているだろうか? なかなか答えられない質問だが、中国では簡単だ。芝麻信用の点数を告げるだけでいいのだ。
個人の信用がスコア化される
芝麻信用(セサミ・クレジット)とは、アントフィナンシャル社旗下の第三者信用調査機関が提供する個人と企業の信用状況を示す指数だ。2015年から始まった、まだ新しいサービスである。アリペイ・アプリからサービス開始を申し込むと、自分のスコアを簡単にチェックすることができる。スコアは最低で350点、最高で950点となる。「スコア公開」機能もあり、SNSなどを通じて第三者に自分の信用力をアピールできるようにもなっているのがユニークだ。
このスコアはどのように算出されるのか? ネットショッピングや振り込み、決済などのアリババグループのエコシステムに関する取引記録と政府のオープンデータベースの2種類がある。後者については学歴や公共料金支払い記録に加え、「失信被執行人リスト」というデータベースも含まれる。
「失信被執行人リスト」、通称「老頼リスト」(踏み倒し者リスト)とは、契約を履行しなかった不誠実者を公開するデータベースだ。裁判での判決に従わず賠償金を滞納した人や暴力や脅しで判決の執行を妨害した人が主な対象となる。契約を守らず金を支払わない、裁判で負けても判決を遵守しない、そうした踏み倒し行為を念頭に置いた制度だ。
もっとも金銭以外でも判決を遵守しなかった場合にはリストに掲載される。2016年には離婚した女性が「月に2回は元夫と子どもを面会させる」という調停協議を守らなかったため、リストに掲載された例もある。掲載されると単に不名誉なだけではなく、公務員になれない、出国できない、融資を受けられない、飛行機や鉄道の一等寝台など高級消費が禁止されるといった実害もある。
こうしたデータはユーザーの同意の下、収集される。免許証、職場のメールアドレス、不動産登記簿などをアプリからアップロードできるようになっており、より多くの情報を預けるほどスコアは高くなりやすいという。
道徳的な人ほど得することができる
こうして集められたデータをクラウドコンピューティングと機械学習、AIなどの先端技術で処理することによってスコアが算出される。総合スコアだけではなく、信用に関する5つの分野でどのような評価を受けているのかも表示される。
その分野とは年齢や学歴・職歴などから算出する「身分特質」、資産などから算出する「履約能力」、取引履行記録から算出される「信用歴史」、他者への影響力や友人の信用状況から評価される「人脈関係」、ショッピングや支払い、振り込みなどの特徴から算出される「行為偏好」の5項目。スコアが高い人間ほど、約束を守り、契約を遵守する可能性が高いと判断される。
興味深いのはこうした道徳的人間ほどお得なサービスが受けられるという点にある。宗教や規律ではなく、便益をインセンティブにした道徳システムと言えるかもしれない。代表的なところでは、スコアを上げると、「シェアサイクルやホテル、図書館のデポジット(保証金)を免除」「一部の国で個人観光ビザ申請手続きを簡素化」などのサービスを受けられる。
ただし、これらは呼び水というべきだろう。本丸は初めて会う人を信頼できるかどうかを数値で評価できるという、信用の可視化にある。
ユーザーの拡大に伴い、芝麻信用の応用範囲は広がっている。中国の大手結婚仲介サイトの「百合網」や「世紀佳縁」はお見合い相手の芝麻信用スコアを表示するサービスを始めた。相手がうそをついていないか、スコアを見れば一目瞭然というわけだ。採用現場においても芝麻信用を参考にするケースが増えている。さらに住宅の賃貸契約を結ぶ際に芝麻信用を参照し、借り手の信用が高ければ敷金が減額、または免除される都市も広がりつつあるほか、芝麻信用が高ければ融資審査が簡略化される消費者金融も多い。